――数十年前、東流魂街十五番地区にて



「お前みたいにフラフラしとらんわ!」

「しっつれいねー!ちょっとあっちの方見に行ってただけじゃないの!」

「それがフラフラや言うとんの!」

「何ですってー!!」



銀髪で狐目の少年と、白地の着物を着た金髪の少女。
道端で行われる二人の盛大な口喧嘩を、大人たちがクスクス笑いながら横切って行った。



「ったくお前は!」

「何よもう!」





「――また喧嘩してるんですか?」







不意に、二人よりも幾分か幼い声がした。
四つの目がそちらへ向く。
そこにいたのは、紙の包みを抱えた綺麗な少女。

二人とは年が離れていそうだが、口調やたたずまいといった物は格段に少女の方が大人びていた。



「葵!聞いてや乱菊がー…」

「違うわよギンのせい!」

「ふふ。せっかく干し柿をいただいたんですから、仲良く帰りましょう」



葵と呼ばれた少女がそう言うと、二人はすっかり牙を抜かれてしまったようで。




「…しゃあないなあ」

「もう」



各々小さく抜かれた牙を捨てて、少女を真ん中に手を握って帰路についた。
昔から反発しあっていたギンと自分が今まで一緒にいられたのは、葵のおかげではないかと、今でも乱菊は思う。

お互いを許しあうことなんて知らなかった、喧嘩をしたらすぐに絶交でもしてしまいそうな幼いあの頃。
葵は自分とギンの間をいつも辛うじて繋ぎ止めていてくれた。



三人が三人とも、性格も特技もバラバラで、まるで歪な家族だったけれど。
どの一人が欠けたって、きっと生きてはいけなかっただろうと。

昔を思い出すたび、いつも思う。








――――――……


幼い頃、私がギンや葵としていた生活は意外と安全に満ちていた。
食べ物は私とギンが手に入れるのに慣れていたし、番号の少ない地区にさえ行ってしまえば安全に眠れるところもあった。

そして何より葵。
どこか浮世離れした雰囲気を持っているとは思ってたけど、やっぱりその通りに不思議なものを持っていた。

虚の居場所が分かることだ。





この頃、たびたび流魂街にも現れる虚は生きていく上で何よりも危険な存在だった。
霊圧という言葉なんて知らなかったあの頃、その素質がある葵は本当に貴重だった。

葵が「いる」と言った地区には入らなかったし、「来る」と言った地区からはすぐに離れた。
だから山賊や人斬りにでも会わない限り命の心配はなかった。

誰かの運でも良いのか、それらにも滅多に遭遇しなかった。


そんな風に生きてきた。






ギンは何かと口うるさいけど、いざと言う時はとても冷静だから助けられる事が多かった。

葵はあんまり笑わないけどとても優しくて、暖かい子だった。

食べ物を見つけて帰るといつも火を焚いて私達を出迎えてくれた。



大勢の人と住む地区でも、三人だけで住む小さなわら小屋も、いつでも葵が持っていてくれたから。
私とギンは迷うことなく「ただいま」って言えた。
葵は「お帰りなさい」って言ってくれた。




家族のいない私達にとって、それが何よりの幸せだった。



 



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