明くる日の昼。
乱菊と葵はいつものように屋根の上で昼食を済ませていた。
今まではただ気持ちが良いという理由で屋根の上を使っていたが、ココ最近は人目につかないから、というのがもっぱらの理由だ。



「あーあ、最近はギンもこっち来られないし暇ね」

「そうですね……」



最初の事件の際に美花の部屋に集まった時、ギンの立ち位置をどうするか、という事になり。
色々な情報が入ってきて楽だから、このままスパイとしてあちら側にいろ、と乱菊が命令した。
めちゃくちゃ本人は嫌がっていた。

そのため葵達と一緒に昼を過ごしているところを見られるわけにはいかない。



「また三人で食べたいですね」

「そうよね…まあその内食べられるわよ。こんな事長く続くもんじゃないし……」


そこまで言って、乱菊が身震いした。
もう外は木枯らしが吹く季節。
いつまでも隊服一つで過ごせるほど暖かくはない。
そんな時、二人が座っている屋根の下から白い煙が上がってきた。



「あら、何の煙かしら」



よっと乱菊が下を覗きこむと。



「松本副隊長ー、水無月さーんっ、たき火やってるんですけど来ませんかー?」

「葵!たき火だって!」

「はい」



乱菊が返事をしただけの葵を無理矢理ひっぱって屋根から降りた。
そこには数名の女子隊員が勢いよく燃えるたき火の周りに集まっている。



「早くー、こっちですよー」



心なしか薄ら笑いを浮かべている女子隊員に呼ばれて、「はいはーい」と駆け寄る乱菊。



「よほど寒かったんですね…」

「そうよっ私冷え性だしねっ」



とルンルン気分で手を火にかざしていた。
もはや顔が恍惚だ。



「そうそう、あんた見かけない顔ね。何て名前?」

「あ、アタシ風音良々って言いますー。三番隊の第七席でーす」

「あら、ギンの隊じゃない。どっかで聞いたことある名前ね、葵知らない?」

「いえ」

「そう…でも本当に暖かいわねーたき火。落ち葉でも燃やしてるの?」



それもありますけどー、と良々が懐から何かを取り出した。



「もっと良く燃えるもの知ってますよ」



と白く薄い四角形の物を三つ手に持つ。



「あ……」



この時初めて、この場での会話に葵が反応した。
それに良々が楽しそうに笑う。
ひらひらとそれで自分を扇いでいる所を見ると、紙で出来ているようだった。



「あれあれ?水無月さん気づいちゃった?」



葵が頷くと、くるん、とソレの反対側を見せた。
【水無月 葵様】と書かれている。



「葵、アレ何だか知ってるの?」

「恐らく……私宛ての手紙、です」

「!」

「ピンポーン」



そう良々が言った瞬間。
炎の上で手紙を持っていた手を離した。



「ちょっ…」



乱菊の伸ばした手が届くはずもなく、一瞬にして手紙は火に飲まれていった。
メラメラと白い便箋が黒く縮れていく。
言葉のない乱菊を通り越して、葵へと言い放った。



「あんたさぁ、生意気なんだよねー。しらっとしてその上ぜーんぜん顔かわらないし。これくらいされたらどう?参った?」

「…参った所で手紙は戻りませんから」



無機質にそう答えて、呆然としている乱菊の袖を引っ張った。
乱菊の肩が震えていた。



「…………葵」



はい、と返事をすると、もっと大きく肩が揺れる。



「あんたの手紙…燃やされちゃったのよ?」

「乱菊さん……」

「死神の私達にとって便りは流魂街との少ない繋がりなんだから…大事なのよ?」

「乱菊さんこらえて下さい、大丈夫です」



我を見失いそうな乱菊に、淡々と話す葵。


(乱菊さんは人のことなのに…どうしてここまでショックを受けてしまうんだろう…)



乱菊の背中に触れながら何とか落ち着かせていた、そんな時。
屈んだ乱菊を見下ろしながら、良々が言った。




「自業自得じゃない」

「!」



その言葉に顔を上げた乱菊がスクッと立ち、大きく右手を振りあげた。



「乱菊さん!」


パンッ


「きゃっ…」



近くにいた他の女子隊員が悲鳴を上げた。
良々が少しの間空中を飛んで、ドサッと少し離れた地面へ落ちる。
見事な平手うち。
葵がため息を声に出した中、隊員達が良々の元に集まる。



「大丈夫!?良々ちゃん!」

「ひどい…!」



少し離れた所から乱菊を見上げていた良々の目にみるみる涙がたまり。
そのまま振り返ることなく駆け出して行った。



「あっ、待って良々ちゃん!」



バタバタとせわしなく女子隊員達が追っていき、場には乱菊と葵が残された。
乱菊は悔しそうに唇を噛み締めている。



「葵の…手紙が…」



ようやく消えかけてきたたき火の炎を見つめながら、弱々しく呟いた。



「乱菊さんがそんなに悲しむことじゃありませんよ」

「だってあんた…手紙よ!?私だってブチ切れるわよ!」



よく考えてください、と葵がたしなめた。
いたって静かに。



「私宛てに手紙が来るわけありません」

「え?……あ……」



普通の死神達が手紙を大切に思うのは、流魂街に住む家族や知り合いから来る貴重な物だからだ。
恐らく良々もそう思い手紙を焼いたのだろうけれど、逆に言えば外に家族や知り合いがいない死神が手紙をもらうことなどない。
葵も、ギンも、乱菊も。



「……じゃあ、偽物なの?」

「そうでもないですね」



ガサガサ火の消えた燃えカスの落ち葉の中を探り始めた葵。
あちこち手を突っ込んで、手紙の断片を探しているようだ。



「……?あんた、さっき手紙が来るわけないって言ったじゃない」

「来ませんよ……普通の相手からは」




そう言い終えた所で一切れの白い紙を見つけだした。
それに触れた瞬間、黒い蝶が三羽、落ち葉から姿を表す。



「あ、地獄蝶!?」



優美な黒い蝶は葵の周りを少し舞うと、手の中に収まった。
一体何処からそんな物が飛び出してきたのか目を丸くしていると。



「風音第七席が持っていた便箋は、全て零番隊専用の物でした」

「零番隊…って…」



ひどく懐かしい言葉。
過去に葵が在籍していた、幻の隊。
有事の際に現れ、事件の収束と共に消えていくため、歴史の要所にしか存在しない。
隊長格の隊員、総隊長レベルの副隊長、全土において右に並ぶものすらいない尸魂界最強の零番隊隊長。

それの二代目隊長が、今ここにいる水無月 葵。
以前の何らかの事件の後、彼女自らが廃止し、隊員は散り散りになったと言う。



「…あ、そっか。零番隊の便箋は…」

「ええ」



最強を誇る零番隊の任務に用いるため、指令を伝える便箋全てに地獄蝶が織り込まれている。
途中で第三者に奪われても露見されても良いように、中の地獄蝶は特殊な方法を使わないと取り出すことができない。



「それが『燃やす』だものね……」

「はい……だから風音第七席が火に入れてくれたのは一石二鳥だったんです。流石に地獄蝶が出てくる所まで見られるわけにはいきませんでしたが…」



そのために珍しく葵が歯止めをかけたのだけど、乱菊は抑えられなかったようだ。



 



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