夢を見ました。
まだ皆と一緒にいた頃の夢です。

色んな人に顔が知られるようになってきて、かなりの有名人になりかけていた葵様。
腰まで髪が長い殺ちゃん。
途中からやってきたけどすっかり馴染んできた猫ちゃん。零番隊。
皆で過ごした最初の零番隊。

大好きな人達がそばにいた幸せな頃。

そして、突然やってきたあの日。





空がそれを言い渡されたのは総隊長からでした。
朝は出隊せずお昼頃に来るようにと地獄蝶で言われたので、空はその通りの時間に総隊長室に行きました。
そこで、宣告されたのです。



厳かな雰囲気と鋭い視線にそれが嘘ではないと知ったとき、空の足は勝手に走り出していました。






(お主は取り乱しそうだからわしから直接言おう)

(零番隊は)

(もういらぬ)






解散、と言われても中身の少ない空の頭にはちっとも入っていきませんでした。
分からなくて、処理しきれなくて、そんなのは嘘だと全身全霊の力で思い込もうとしていました。

その時空の近くにあるのは隊室より殺ちゃんの部屋でした。
殺ちゃんなら何か知ってるかも知れないと直感的に思って。



「殺ちゃん!零番隊がー…」





勢い良く飛び込んだ部屋にいたのは、あの髪の長い殺ちゃんではありませんでした。



「…空か」



空を見ていつもより覇気がない声で呟いた殺ちゃんの髪は肩より短くなっていて。
右手には斬魄刀『炎呪』、左手には殺ちゃんの、切り落とされた、髪がありました。



「せ、ちゃん?」

「空、聞け」



ぎゅっと長い長い切り落とした髪を握ったまま、殺ちゃんは言いました。



「…零番隊は解散だ、お前も家に戻るかここに残るかを決めろ」

「っそんな…!猫ちゃんは!?他の皆は!?」

「七猫は葵様のいない瀞霊廷になど未練はないだろう。他の隊員も早々に決断した」



こうなることはいずれ分かっていたしな、と自嘲気味に笑う殺ちゃんの言葉にも、空の体は拒否反応を示します。

だって、だって、昨日までいつも通りだったから。
だけど、それよりも空の耳に残ったのは。






葵様はいない。






「…いないって…ど、して?」



そう聞くと殺ちゃんは、言うことすら苦しそうに、ためらうように、唇を固く噛んでから吹っ切るように空に言いました。






「零番隊は解散、葵様はもういない、隷従の誓いも解かれる」







葵様は 零番隊は 俺達を捨てたんだ

今までの事は全て忘れろ








そう発した瞬間、ボオウッと殺ちゃんの左手から炎が上がっていっぺんに切られた髪を燃やしあげました。
それを見て、空は涙が止まりませんでした。
だって殺ちゃんは空と同じくらい嘘をつくのが下手くそです。

殺ちゃんの斬魄刀は尊敬する念がそのまま炎になるんだって教えてもらいました。
葵様に捨てられたんだと本気で思って憎んでいるのなら。



その綺麗な髪を燃やしていく炎は一体何だと言うのですか。

その頬に流れている涙は一体何だと言うのですか。







殺ちゃんは葵様のこと大好きだから、嘘でも「捨てます」と言われたらそれを信じようとするんだよね。
嘘だって分かってても自分に信じさせようとするんだよね。


でもごめんね、空は。
殺ちゃんみたいに強くないから。






「空!」



殺ちゃんが止めるのも聞かずにその部屋から飛び出しました。
信じられなかったんです、葵様が、皆がもういないなんて。

昨日までいつもみたいに皆で騒いで殺ちゃんに怒られて葵様の近くにいて仕事してようやく見つけた空の居場所だなあって思ってそれで。



葵様の ずっとお側にいよう て 決めてた のに



廊下を走って走って走って。
息を切らせてたどり着いた先で、空が見たものは。





入り口が鎖で何重にも封鎖された隊室の扉でした。





気がついたら、叫んでいました。
今目の前にある物が信じられなくて、こんな日が来るだなんて少しも思っていなくて。

駆け寄って扉を開けようとしてもギシギシなるだけで到底開きません。
斬魄刀で壊そうとしても壊れません。



「葵様!葵様あ!」



中に誰もいるはずがないのに、空の手は零番隊の扉を叩くことをやめませんでした。



「葵様!どうして!どうしてどうしてどうして!だって昨日まであんなっ…あんなっ…」



ドン、ドン、と木の扉を叩く同じ音が虚しく響きます。
壊れろ、壊れてしまえ。
こんな扉壊れてしまえ。


 



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