ある雪の日、綺麗な人を見ました。
忘れもしない冬の始まり、初めてその年に雪が降った日のこと。

しんしんと降る雪の中に立っているその人は落ちてくるそれよりもずっと白くて。
空は死にたいと思っていたことも忘れていました。

























その頃の空はいつも俯いている死神でした。
滅多に言葉を話さない死神でした。
大きな動きなんてしない死神でした。

隊に居場所のない死神でした。






「空も四楓院家の次期当主候補なのだから、そろそろ死神になっても良い頃ね」

「空がですか?」



お母さんが空にそう言ったのもずいぶん昔の話になります。
空の名前は空、四楓院 空です。
何でも空のような四大貴族の人は、ほとんど瀞霊廷で死神になるんだとか。
もちろん空も例外ではなかったのです。



「そこって楽しいですかっ?」

「頑張り次第ではとても楽しいところよ。空は元気だから大丈夫よね?」

「はい!」



その時の空は瀞霊廷に入るのが少しも怖くありませんでした。
初めて会う人達や初めて見る場所が楽しみでした。



春が来て空は一番隊に入ることになりました。
どんな隊なのかは知らなかったけど、一番隊は凄いところだと聞いていたのでビックリしました。
総隊長と言う人は入隊式の挨拶で一度見たきりだったけれど、とても立派なおじいちゃんでした。

ワクワクしたのを覚えています。






一番隊の先輩が空達のように新しく入った隊員に色々な仕事を教えてくれました。
分からないところや難しいところも何度も教えてくれました。
だけど。

段々と仕事についていけなくなりました。
仕事と一緒に、隊の人にもついていくことができなくなりました。





空はうるさいらしいのです。
朝の挨拶も、会話の一つ一つも、ちょっとした時にあげる声も、みんなみんなうるさいらしいのです。
空は今まで自分の声の大きさなんて気にしたことがありませんでした。

空は使えないらしいのです。
好きな書類の仕事に一番ミスが多くて何度も叱られました。
どうしてこんなところを間違えるんだとも怒鳴られました。
空にも分からないのです。

何度も何度も何時間も一枚の書類を確認しても見せに行くたびミスが見つかります。
自分で大丈夫だと思って出した書類を怒られながら突き返されるのはとても悲しいです。
先輩や上司の人に見せに行くのが怖いのです。



だからたくさん時間をかけて暗記が出来るくらいに書類を確認しても、それでもミスは見つかります。






見つかって怒られるたび、空は空が嫌いになりました。
どうしてこんな簡単なことができないんだろうと頭の奥が熱くなって泣きそうでした。
お茶をくめば途中で転ぶ、物を作ればミスをする。
そのうち同期の人にもそう思われて、いつの間にか空は一人ぼっちになりました。





うるさいと言われるので声は小さくなりました。

生意気だと言われるので伏し目がちになりました。

騒がしいと言われるので大きな動きはしないようになりました。









そして完全に一番隊の中で存在を無くしたある日。
空はあの人に出会いました。



 



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