「ご指摘ありがとうございます……しかし、結構です」

「……殺那、何か勘違いをしては」

「そんなものしていません、父上の仰りたい事はよく分かりました。……俺が行く道は俺が決めます」



それだけを言い捨てて部屋から出た。
追いかける父上の声を遮るよう強く襖を閉めた後は、ただただ不愉快な気持ちが溢れていた。





「……くそ!」



物にあたるのは恥ずべきことだとは分かっていたが拳は壁を殴るのをやめない。
なぜ、なぜ俺が。

一族で一番の力を持って統率力を持って人徳を持ってなぜ俺が。
斬魄刀の名前すら聞けないままなんだ。
瀞霊廷になど行かなければいけないんだ。



「……こんなに惨めにならなければ、いけないんだ……!」



ギリ、と力を込めた歯が音を鳴らす。
誰かに教えてほしかった。
俺は一体どうすれば良いのか、どこへ行くべきなのか。

誰でもいいから。













――――――……


「ほほう、お主が檻神一族の次期当主かの。よくぞ参った」

「……はい」



結局瀞霊廷へ来たのは半分自暴自棄な面があった。
このままでは何も変わらないことくらいは気づいていたし、俺を使う隊長の顔を拝んでやろうとも思っていた。
ただこれからの生活で、今目の前にいる総隊長以外の死神に仕えることになるのかと思うと、苛立ちは隠せない。



「檻神家ともなれば…是非ともお主には零番隊に入ってほしいのう」

「…零番隊?」

「左様。昔は瀞霊廷も荒れておってな、それらを統制するために作った隊での。主はそこの副隊長になってほしい」



副隊長。

この俺が。

強く握った拳を悟られないよう質問に専念した。



「…その隊長は、どこに?」

「む、今頃はこちらへ向かっておるだろう。隊長服の色合いが他の隊の物とは異なるからすぐに分かろうぞ」

「そうですか」



相手の姿などどうでもいい、抜けた奴なら一発ぶちかましてやろう。
ここを去るのはそれからでも遅くない。
そう思っていた、が。

それからどれ程待ってもぶちかます相手は現れなかった。
一時間は待っただろうか、その頃になってようやく俺にも異変が分かった。



「…あの、総隊長。いつになったらその『零番隊隊長』は来るのですか」

「『二代目の零番隊隊長』じゃぞ」

「どちらでも同じことです…!」

「まあそう急かすでない。ちゃんと奴にはこちらへ来るように……」



そこまで言った総隊長がピタリと止まった。
なにやら指を頭につけて思い出そうとしている。

……嫌な予感がした。





「あ、あやつに連絡するのを忘れておった」

「……!」



自分でも自分の理性がキレたのが分かった。
人を一時間待たせておいて『忘れてた』!?



「…っ巫山戯るな!俺は帰る!」



襖を勢いよく開け放して一度も振り返らずにその場を後にした。










「……やれやれ、儂のおちゃめが分からんか。あやつは中々骨が折れそうじゃのう、葵や」








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