「そういや、なして僕らは零番隊でそないに有名なん?」



そう尋ねると、心なし少し笑って殺那が答えた。



「零番隊当時から葵様は滅多に笑われない方だったのですが…市丸様と松本様のお話をするときだけは時折微笑まれたのです」

「僕らの話?」

「空が聞くんですよ、葵様に。小さい頃のこと、好きな人のこと、楽しかったときのこと、今までで一番困ったこと。その全部の答えに市丸様と松本様がいました」




嗚呼、閉じた瞼の裏に描けそうな光景だ、と思った。
空の質問に答えるため、思い出の一部を切り取って話して聞かせる時、きっと何の意識もなしに。
葵は笑っていたんだろう。

零番隊では滅多に笑う機会が無いため、隊員達の間で葵を微笑ませるギンと乱菊の存在は有名だったのだ。





(…それはかなり、嬉しいな…)



困ったことに相当嬉しい。
ああ葵は、零番隊にいた頃も自分達を忘れないでいてくれたのだと。
乱菊が酔っ払っていなければ、走り寄って教えてやりたいくらいだ。




「葵様が零番隊隊長になられた時、市丸様達はどこに?」

「あー…流魂街やね」

「一緒ではなかったんですか」

「せや、引き離されたん」



ちょっと思い出したくなさそうに声を低めた。



「小さい頃に僕と乱菊と葵が会うて、ずーっと一緒におって、幸せやったんやけどね。ある日に突然零番隊初代の隊長とか言う奴が来て葵を連れてったんや。瀞霊廷に」



二代目の隊長にさせるとか言うて、ほとんど無理矢理、と話すギンの口色は静かで小さく、本当に思い出したくない事のように見えた。



「目の前で連れていかれて、あん時ほどショックやったことないわ。乱菊なんか三日も口聞かんかったし」

「…そうでしょうね」



自分自身も解散と言う形で仲間との引き離しを受けていた殺那。
その思いは痛いほど分かる。



「またこうして一緒におれるからええんやけど……乱菊も美花ちゃんなんかに壊されたくないんやろ、今の幸せ」



そう言って視線を部屋の真ん中に戻す。
葵を抱きしめて楽しそうに笑う乱菊を見る。
幸せ以外の絵はそこにはない。






「僕も壊させる気、ないわ」








一瞬鋭さの混じったギンの声。
ぞくりと冷たいその声に、殺那は再び、自分も覚悟をきめた。

葵から聞かされた真実を、誰にも告げない覚悟を。














「ハイまた葵の勝ちー!」

「ええ!またあ!?」



その頃、京楽+十一番隊VS葵(無理矢理)の賭博対決が行われていた。
内容は花札や坊主めくりなど運任せなものが多いが、葵に負けの兆しはない。



「すごいね葵ちゃん!剣ちゃんもやちるも京ちゃんもつるりんも皆倒したよ!」

「葵様〜、まだ空とやってません〜あひゃひゃ!」

「空は飲みすぎですよ。それでは札がめくれないでしょう」



葵の前には景品として賭けていたおつまみの山ができていた。



「それにしても凄いねえ、こんなに立て続けに勝てるなんてただ事じゃないよ」

「葵ってば昔から運って言うか勘って言うか、そんなのが凄かったのよ。でも何かを賭けての勝負とかには使ったことなかったわね?」

「一度使いましたが、それきりですね」

「そうだったかしら。いつ使ったっけー…」



うーん…と悩んでいる最中に、ギンがやって来て。



「その辺にしとき乱菊。ベロンベロンやん」

「お!京楽隊長!まだ飲んでない奴を発見したであります!」

「飲ませろー!」

「は!?」






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