あの鉄屑のスクラップ置き場にある一つの廃屋に、猫はいなかった。
屋根にも中にも、どこにも。
だから近くを通った本物の野良猫に尋ねてみた。



すみません 探している猫を知りませんか


目が隠れていて耳も尻尾もなくて人みたいに大きな猫なんですけどね


綺麗な銀色をしているんです







とうてい無理だと思ったけれど、不思議と何か通じるものがあったらしく。
尋ねた三毛の野良猫は一度にゃあと鳴いて先を歩いてくれた。

ゆっくりゆっくり歩く野良猫の後をついていって、だいぶ時間が経った頃。
薄緑の草が茂った一つのなだらかな坂の上で野良猫は止まった。



その場所を見て、ほんの少しだけ笑みを浮かべる。




(……ここは確か、一緒に散歩に来た場所だ)



ありがとうと野良猫に言うと、今度は一度も鳴かずにすたこら去って行った。
それを見届けてから静かに坂を下りる。
見慣れた銀色が寝転んでいた。






「本当にあなたは日向ぼっこが好きですね」

「!」



むっくり起き上がった猫が、驚いたように葵を見上げた。



「拾ったのが晴れた日で捨てたのが雨の日なら。もう一度拾うのはやはり、晴れた日でしょうね」

「……今みたいな?」

「ええ、七猫」



静かに、笑って。





「もう一度私の猫になってくれますか?」






ひだまりのようにそう言った。
その笑顔に何より弱い猫は、ちょっとだけ擦り寄りながら。






「いいよ」






隠しながらも、嬉しそうに。
そう答えた。








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それはある穏やかな優しい日の出来事でした



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