葵が隊長であると言うその一言に周りがザワついたが、大して気にとめる様子もなく。



「俺と葵様の移隊届け、受理していただけますね?東仙隊長」

「…君は、正義の者だと思っていた。正義に生き、正義に死ぬ者だと」



その言葉に、殺那は肯定した。
俺は正義の者ですよ。
仰る通り正義に生きて正義に死にます。



「俺にとっての正義は、葵様ですから」




















――――――……


「無事移隊手続きが出来ましたね葵様!」

「そうですね、殺那と空が来てくれたおかげです」



呆然としている十番隊を去った後、零番隊の隊室へ向かうため廊下を歩いていた。
殺那の霊圧は制御装置を外したものだったが、解散時に配られた『掟』にも装置を装着する義務は解散している間としか書かれていないのでお咎めはない。





「でもあんなに小さな範囲での公表で良かったんですか?もっとバーン!とやりたかったです」

「良いんですよ、たった一人が見ていれば」






去り際に一度だけ見た。
自分を射抜くように見つめる美花の目を。



「今日中には知れ渡ります。それより私は空が一言も喋らずにいたのに驚きました」

「はい!殺ちゃんにマジ顔で『この場面で騒いだら灰にする』って脅されました!」

「こうでもしなければこいつが叫ぶことは目に見えていたので」

「賢明な判断ですね」



確かにあの場に盛大な高い声はそぐわない。
何ですかそれーと頬を膨らませる空を軽くあしらう。



「とりあえず隊室へ行って鍵を開けましょうか。四十六室の点検が入るそうですから」

「あれ?零番隊の隊室の鍵ってどこにあるんですか?」

「「………」」



いきなり押し黙った他の二人に、へ?と戸惑う空。



「…空、お前葵様が首からかけている霊圧制御装置の形を言ってみろ」

「え、鍵だけど…ああ!それ隊室の鍵だったんですか!」

「正確には鍵にもなる、です。これは三つほど使い道がありますので」



すぐに空がその場で三つの使い道を数え始めた頃、隊室の前に到着した。
普段は誰も入ることのない、廊下の突き当たりにある厳重な鍵をかけられた部屋。
それこそが零番隊隊室。



ガチャリ



葵が鍵を開けるのと同時に、扉を幾重にも巻いていた鎖が音をたてて落ちた。
暫しの間それを見つめていたけれど、すぐに顔をあげて。




「では戻りましょうか」

「入らないんですか!?」

「四十六室の点検が済むまでは入ってはいけないようになっている。まあ今日中には終わるが…どちらにしろ埃だらけで使い物にならないだろうな」



そうですね、と相槌を打って。



「では、私は行って来ます」



廊下の端にある、外へ出るための扉の前に立った葵。
これから葵がどこへ行くのか知っているので、空は元気よく手を振った。



「行ってらっしゃいですー、空は葵様の隊長服用意してますから!泣かせちゃ駄目ですよ!」

「…本当に行くんですか。今度こそ離れなくなりますよ、あいつ」

「殺ちゃんヤキモチー!」


ゴンッ


「った!」







元気な二人を見つめて手を振り返しながら、大丈夫ですよと一言だけ言って。
葵は外へ出ていった。











よく晴れた日だった。




 



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