「葵……」

「ああ乱菊さん、失礼しますね」



室内に足を踏み入れ、音もなく東仙と日番谷の前に歩み寄った。
部屋の端で男隊員に抱きついてこちらを見ている美花を視界に入れることもなく。



「……水無月、俺が出した謹慎処分はまだ続いているだろ。こんな所にいたら処されちまうぞ」

「はい、その節はありがとうございました。ですが少し私用があったので、総隊長に許可をいただいて出隊してきたんです」

「私用っつーと、東仙にか?」

「ええ。しかし、東仙隊長がこちらへ走っていってしまいましたので」



どうなされたんです?とさして何事も起きていないと言うように首を傾げる葵。



「何があったんだ、東仙」

「…これだ」



小さくそう呟いて、今まで手に持っていた紙を日番谷に渡した。




「移隊届け…だと?」

「はい」

「どこへだ」

「零番隊です」



それを聞いた日番谷が目を見開き、驚いた表情に変わった。
東仙が移隊届けを持って自分のところまで来た理由にようやく合点がいく。
許せなかったのだろう、全ての上に立つ零番隊に葵が入ることが。

情報が少ない零番隊へ入隊する者が自分の隊から出るとなれば、日番谷とて落ち着いてはいられないかもしれない。
日番谷が移隊届けに目を通し終えたのを確認して、再び東仙がそれを持ち直した。





「確かに君は力があるだろう。だが君のような者が零番隊へ入って良いと思ってるのか」

「私のような物、ですか」

「仲間を斬りつけ謝りもせず日々を生きている君のような者、だ。何席につくのかは知らないが、そんな資格があるわけないだろう」



ビリ!と派手な音をたてて移隊届けを破り捨てた。



「ちょっと隊長、破くことないじゃないですか!」

「待て松本。零番隊への移席は各隊長の判断に任せると言われただろ」

「あ、もう一枚持ってるので大丈夫です。」

「あんの!?」



すんなりと懐からもう一枚の書類を取り出した。
行動を読まれていたせいか、うまく踊らされていたせいか、東仙の怒りに火がついた事が見ただけで分かる。



「巫山戯るな…!」



更なる拒絶をするためか、激を飛ばすためか、東仙が葵へ一歩近づいた瞬間。
凍りついたように東仙の動きが途中で止まった。



「なっ……!」



この体の硬直には覚えがある、先日葵の巨大な霊圧を浴びた時のそれだ。
膝を付きそうな体を堪えながら葵を見たが、当の本人はただ立ち尽くしており、そんなことを行なった様子はない。
その時、ふと葵が視線を流して十番隊の入口を見やった。

釣られて自分もそちらを見ると。





「葵様、お迎えにあがりました」






そこにいたのは、黒髪に真赤の目を持った端麗な少年。
見覚えのあるその顔は、笑みひとつ浮かべずに、まっすぐこちらを見ている。



「…来ていたんですか、殺那」



その言葉に一度頭を下げて、隣へ歩いてきた。
殺那の一歩後ろには空の姿が。



「檻神君、なぜ君が……」

「東仙隊長、葵様から離れていただけますか」



平然とした顔で霊圧を東仙ただ一人に向ける。
副隊長とは言えその力は総隊長に匹敵するものだ。

東仙がぎこちなく葵から一歩離れると、徐々に霊圧はおさまった。





「東仙隊長、俺の移隊届けは受理していただけますか?」



同じように懐から取り出した紙を東仙の前に広げて見せる。



「君も零番隊だったのか…」

「ええ、副隊長です。隊長は葵様ですが」

「水無月が隊長だと?松本、お前知って………いた顔だな」

「てへっ」



 



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