(あ、市丸隊長!)

(ん?葵か?)

(え…良々、ですけど……)

(ああ良々ちゃんか、なしたん?)

(…いえ、何でも、ないです…)







「……市丸隊長が?」

「言いなさいよ!どうやってたぶらかしてるのよ!」

「たぶらかしてま、せん…」



ガクガク揺さぶられて言葉が途切れる。
しびれを切らしたのか、良々は右手で形を作って。



「縛道の一、塞!」

「!」



葵の腕が後ろで組まさったまま動かなくなった。
よろけたところを良々が連れてきた女隊員達がしっかりと押さえ込む。



「……風音さん」



葵が声をかけたときには、すでに体の震えも全て消えた良々がまた歪に笑っていた。



「あんたはいくら言うことを言っても聞かないから、体に教えるしかないわよね?」



そう言って長い縄を見せた。



「ヒントあげるわ。高いところと、縄よ。さあ何されるのかしら?」










――――――……


(…結局、縛り上げか…)


瀞霊廷の門のすぐ近くにある、高い木。
その太い枝の一つに座らされて、幹に寄りかかったままぼんやりとそんなことを考える。
腕には、幾重に巻かれた縄。
それは幹を回り葵の華奢な体をしっかりと木に縛りつけていて、抜けられそうにはない。

たかだか縛道の一にかかった自分を見て、時間の流れを感じる。
自分の呆れるほど膨大な霊圧があれば大体跳ね除けられるのだけど、霊圧制御装置は元柳斎しか外すことが出来ない。

縛道で身動きの取れない葵を木に縛りつけると、良々達は高笑いしながら帰って行った。
ご丁寧に人の目につかない木の、人の視界に入らない枝に縛りつけて。
縛りつけられるまでの多少の暴力なら慣れたものだ。
切れた唇と腕から流れる血はいとわない。



頭をよぎるのは、三つ。

一つはギン。
良々の言葉を思い出して、ふうとため息をつく。
自分が後ろから抱きついたりなんてするわけないのに、と。
普段から美花と良々側のフリをしているギンが葵の名前を簡単に口に出してしまうなんて。
もしかしたらもう色々な意味で限界なのかもしれない。



(…ギン、今日のご飯ですが…)

(…葵、俺、俺だけど)

(あ、すみません七猫……)



嗚呼、と零番隊時代の黒歴史を思い出して顔を覆いたかったけど、縛られていて出来なかった。
正直ギンの気持ちは分かる、呼び慣れてる方が出てしまうのだ。

だけど、それでも、隊員の名前は。
間違えないであげてほしい。



(……何か凄い当たり前なこと言ってる気がする)





もう一つは今までの事。
濡れ衣を着せられた、と噂は流れているらしい。
確かに濡れ衣は濡れ衣だ。
でも、自分から着たのだ。
そうする事しか出来なかった。

だってもう、これ以上。

辛い思いをさせたくなかった。



そして最後は。



「……あ」



ポツリと頬に雫が当たった。
葵が顔を上げると、今にも泣き出しそうな雨雲がどこまでも続いていた。
雨が降るんだろう。

それを察した葵は、心のどこかで、安心した。

ああ、良かった。
雨が降れば、あなたが私の血の匂いを嗅ぎ取ることもないだろう。
その爪を血に染めることもないだろう。





その思いを叶えるように、少しずつ雨は降りだした。




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せめて三つ目には、あの仔のことを。



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