顔色もすっかり青ざめた肌から元の白さに戻った。



「葵様、そろそろ隊が騒ぎ出しますので……」



九番隊の今の状況は、副隊長が闇打ちされて第三席である殺那がここにいる状態。
上位席官が抜けては怪しまれてしまう。



「分かりました、わざわざありがとうございます」

「いえ、これが俺の役目です。……空も七猫も、葵様に会いたがっています」

「殺那」



葵が至極落ち着いた声で続きを止めた。
まるで諌めるように。



「もうあの子達は零番隊隊員じゃないんです」



それを聞いて殺那はわずかに表情をこわばらせたが、それ以上の反応を浮かべずに、葵が何を言おうとしているのかを察した。
長年零番隊の隊長と副隊長で繋がっていた関係だ。



巻き込まないであげてほしい。
彼らも、そしてこの人達も




それは、殺那にとって優しさと苦痛に満ちた命令。
昔の主の無事も危険も、過去の仲間に伝えることが出来ない。
それでも葵が言う言葉なので、従った。



「…貴方がそう言うのでした。葵様」



それ以上の言葉は飲み込み、ゆっくりギンと乱菊の方へ顔を向けた。



「市丸様、松本様。不甲斐ない俺達の代わりに、葵様をお願いします」

「任せなさいな。あんたみたいな良い男に葵を独り占めされる訳にもいかないしね」

「ほとんどお前の独占やん」

「嫌ねーギンにもあげるわよ、一割くらい」

「少なッ!」



ギャーギャー始まりそうな二人を見て、少しだけ殺那が安心したように笑った。
しっかりと一礼し、瞬歩であっという間にその場からいなくなる。
この後同じ隊室でまた会うことがひどく不思議に思えた。



「葵、これからは呼び出しくらったらすぐ私のとこに来るのよ?」

「はい、善処します」

「そんなら一旦隊室に戻ろか。これからは副隊長さんもおるから少しはマシになるかもしれんな」

「そうだといいけど……」



(それにしても、まさか葵に手を上げる男がいるとは思わなかったわ……)



隣を歩く葵の横顔を見ると、そういう思いがよぎる。
無表情ではあるけれど、艶のある髪も、陶器のような肌も、身に纏う雰囲気さえも乱菊にとっては全て綺麗で。
完成されていて。

人形のように、見えたから。
あまりにも感情が抜け落ちていたから。
一人の人間として見てもらえなかったのかも知れない。

昔、ギンや乱菊と一緒だった頃にも、その容姿のせいで後ろ指を指されることは少なくなかった。
それが良くも悪くも、誰かに人らしくない所を見つけると、なぜか人は攻撃をしても良いと考えるようだった。



(私が葵を守らなきゃ……)



真剣な表情で歩みを進めていた乱菊の足に、ふと何かが当たった。



「?」



その柔らかいような固いような感触に下を見ると。
四人の九番隊の隊員が、血まみれで転がっていた。
全員、あちこちに刃物で付けられた傷がある。



「え!?」

「うわ、何やこれ」

「……あ」



葵には見覚えがある。
倒れているのは、先ほどまで葵へ暴力を振るっていた隊員だった。
葵を連れだし、殺那に後を任せて去って行った隊員達。


「なしたん?葵」

「……いえ、すごい傷だなと」

「せやなぁ、あちこち傷だらけやん。喧嘩か?」

「そうは見えないわよ、それにこいつら九番隊でしょ?日頃から葵をいじめてる罰として檻神副隊長が仕返ししてくれたのよ」



四番隊に伝えとくから早く帰りましょ、とグイグイ乱菊に押されて強制的に進まされながらも、その場にいた葵だけはそれが違うと言うことを知っていた。

殺那と対峙していたあの時。
倉庫の壁一枚向こうから聞こえてきた痛々しい音。
ベキッだの、ぐあっだの、きっとあれはこの隊員達を痛めつけていた時の音だ。

それを聞いているときに殺那は目の前にいたのだから、出来るわけがない。



(まさか…)



こっそりと、遠ざかりながらもちらりと倒れている血だらけの隊員達を振り返った。
一つ一つは小さいながらも、体全体に広がりおびただしい量の血を流している無数の切り傷。

まるで。

猫の爪に切り裂かれたような。





(……まさか、ね)







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