――――――…
「あー瞬歩ってありがたい!」
「最初っからこうして話せば良かったやん」
あの後、到底『探すに決まってんでしょ!』の誤魔化し方が思い付かなかったため、やりきれなくなり瞬歩で逃げ出した所。
誰にも見られずに並んで走れるし探せるし話せるしで、一石三鳥くらいの利点があった。
ふと、おもむろに乱菊が尋ねる。
「ねえ……葵、変じゃない?」
「変や」
ギンも同じことを考えていたようだ。
「……あまりにも抵抗しなさすぎるわ。そりゃ葵は必要最低限の動きしかしないけど…」
「葵ならもうちょい否定やら何やらするわな。ちゃうならちゃう言う子やし」
「やっばりそうよね…」
葵の意思や信念と言うものは周りが思うよりもずっと固い。
発言も少なく、波風を立てる性格でもないのでそうは思われにくいが、あれでいて相当な頑固だ。
違うものにはきちんと異を唱える性分だというのに。
しかし、今は葵を探し出すほうが先決と割りきった。
「じゃあ私はこっちを捜すわ」
もう一度ヒュンッと消えて、お互いバラバラの場所へ跳んだ。
(葵…無事でいて…)
そう願わずにはいられない。
乱菊は誰よりも葵の幸せを望んでいるから。
昔、約束したから。
もし 三人で出会えたら
また一緒にいようね
「…っ」
いつでも思い出せるように大切にしまっておいた思い出が、その時はまるで何かの走馬灯のように思えて、頭を振って打ち消す。
(約束したんだもの…こんなちっぽけな障害に潰されてたまるかっつーの!)
そう心に決めてもっと遠い距離へ跳ぼうとした時、見覚えのある姿が廊下の突き当たりを曲がっていった。
大急ぎで足を止め、廊下の向こうへ身を乗り出す。
見覚えのある髪色と長さだった。
(まさか…!)
もう一度瞬歩で突き当たりまで跳んで、しっかりとその姿を捕えた。
それは間違いなく。
「――っ葵!」
呼ばれて振り返ったのはいつもの白い肌。
それから静かで、大きな瞳。
そのままいるだけで背筋が伸びるほどに綺麗な、親友だった。
「……乱菊さん?」
小さな口元がいつもの声で乱菊を呼ぶ。
それにどうしようもなく安堵した。
「良かった…無事だったのね」
「無事?」
「気にしないで、無事なら何でもないわ…。少し身の周りに気をつけるのよ?」
「はい」
「あ、乱ちゃーん!」
いきなりの高い声に振り向くと、トテトテやちるが走ってきた。
「あらやちる」
「乱ちゃん久しぶりー。あ!葵ちゃんだあ!」
乱菊の後ろに葵を見つけて、ガバッと抱きついた。
「やちる、葵を知ってるの?」
「知ってるよー仲良しだもんね?」
「はい」
やちるが無邪気に葵に抱きついているのを見て、久しぶりの味方を見つけた気分だった。
あまりにも最近周りの隊員の毒気に当てられていたから。
(そう考えるとギンは凄いわね…ずっと敵のふりしてなきゃいけないのに…)
自分が割り当てた役割とは言え、乱菊がそんなことをやらされたら発狂でもしてしまいそうだ。
その時、今までニコニコしていたやちるが少し驚いた顔をして。
葵から体を離した。
ひどく息苦しそうに。
「?」
微笑んで葵が首を傾げると、もっと離れた。
「じゃあ少し歩かない?何かアンタ探してヘトヘトよ」
「はい」
「やちるも来る?」
「…ううん、やちるは良いっ」
鼻と口を両手で塞ぎながら、バイバイ、そう言っていなくなった。
「相変わらず変な奴ねー…じゃ、行きましょっか」
「ええ」
フンフン、と鼻唄を歌いながら歩き出した乱菊の後ろを着いていった葵の口が。
心底楽しそうに
ニヤリと
笑った…
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獣の皮を被りし獣
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