その目が室内にいる葵を捕えて、キッと睨んだような表情になる。
それをいち早く察知して、




「それでは失礼します、市丸隊長」

「ん」



なるべく目を合わせないように立ち上がると、スルリと吉良の横をすり抜けて出ていった。
その後ろ姿を憎らしげに見つめている事は知らないふりをした。




「…隊長、今の水無月さんですよね」

「ああ、書類届けに来たんや」



ほれ、と九番隊からの書類を見せた。
書類を届けに来てそのままここに居続けさせたのだから、嘘は言っていない。



「それなら良いですけど…水無月君は僕らの敵ですからね」

(あー…せやった。僕こっち側のフリやん)



敵、という陳腐な言葉を鼻で笑いそうになる自分をどうにか抑えた。



「せやねえ、美花ちゃんも良々ちゃんも手ぇ出したしなあ」

「そうですよ!風音君だって巻き込まれて可哀想に…」



危うく再び貼りつけた笑顔が剥がれそうになったけど。
騙されているだけなのだと葵の考えを反復してとりあえず落ち着く。



「イヅルはえらい可愛がっとるんやね、良々ちゃんの事」

「え、ええまあ…サボる市丸隊長を僕の代わりによく探しに行ってくれますからね。良い子なんです、凄く助かっていて」

「あー……なるほどな」

「なので今回の件は本当に許せなくて……ああ、でも水無月君が九番隊に移隊されて良いことがありましたよ」

「何や?」

「檜佐木君が動くんです」

「…檜佐木君?」

「ええ、水無月君はまだ彼女達に正式に謝罪していないじゃないですか。それは良くないと言う事で一部の隊員が動くらしくて、檜佐木君もその助っ人に入るそうです」



どれだけ取り巻きがいようとも美花も良々もたかだか第七席。
大それたことは出来ないだろうと思っていたのだけど。

出てきた名前は副隊長格。



(…乱菊の言ったこと当たっとるし…)



ばっちりスパイ作戦が成功しては、これから文句も言えなくなる。



「そんなら仕事したるから一人にしてくれるか?」

「はいっ!」



どこかの身内を連想させるほど、ピシャッと勢いよく障子を閉めて室外へ飛び出していった。



「あないに勢いよく出ていかんでも…仕事しとらんとこう言うとき便利やね」



けれど、そう呑気にも構えていられない。
今の吉良の情報を葵に教えるにも、美花側のフリ中なため近くにいるところを見つかってはいけない。
同様に葵の味方と周りに知られている乱菊に伝えるにも同じこと。
と言うことは。



(…あれ、基本的に普段は僕って一人やない?)



三人組が二つに別れればどちらかが一人になる悲しい決まり。
思い返せば幼い頃から、やれ女同士だの体力別だのとなんだかんだ理由をつけては葵を乱菊側に入れられていたのを思い出す。



(乱菊…アイツ一人が嫌やからって昔っから葵を横取りしおって…)



ちょっと怒りに燃え出した。
それどころじゃないと思うのですが。





ーーー十番隊隊長室



「日番谷隊長!お話があるんですけど!」

「奇遇だな、俺もある。とりあえず昼間何時間もどこ行ってやがった」

「そんな事はどうでもいいんです!」

「良くねえだろ」



外の見回り後、他の隊員が来ていない隙を見つけて取り急ぎ訴えに来た乱菊。



「何で葵が移動なんですか!?どう見たって怪しいのは花椿の方でしょう!」

「お前なあ…斬った斬られたの渦中の奴らを同じ隊内に置いておけるか」

「じゃあ花椿を移動させて下さいよ!」

「花椿は『まだ』被害者側だ」



もー!と地団駄を踏みながら駄々をこねる。
いつだって正論しか返ってこないと分かっていながら、一度は聞かないと気が済まないのだ。



「くっ、葵がそんな事するはずないじゃないですか……」

「……まあ、水無月の勤務態度や能力は至って真面目だからな。だがそれを言うなら花椿もこうなるまで何の事件も起こしてなかった」

「……日番谷隊長の、葵を見た目で判断しないそういう所凄い尊敬してますけど…でも違うんですって……」

「……とにかく、もう俺は今回の移動で一回花椿の肩を持っちまった。お前の力にはなれねえ」



上の人間がコロコロと意見を変えるわけには行かない。
隊全体の指揮を考える必要がある。
それは乱菊も、十二分に分かっている。



「仕方ねえよ、その瞬間を誰も見てねえんだ。少なくとも、俺は花椿の口から実態を聞くまでは十番隊の隊長としてこの意見を通す。……あいつへの風当たりがおかしい時は、俺も間に入る」

「……分かりました」






ーーーーー……




三番隊隊長室からの帰り道、廊下を歩いていた葵。
ここ数日で人気の少ない廊下を見つけ出す能力が飛躍的に向上した。



「ねえねえ」

「はい」



ふと後ろで声がしたけれど、振り返っても誰もいなかった。



「?」

「ここだよー」



遥か視線を下にすると、いた。
通常の目線の高さでは到底視界に入らないだろう小さい少女が。
桃色の髪、こちらを見上げる鳶色の瞳。



「ああ、草…」

「やちるって呼んでー!」



小さい両手を伸ばしてプンスカ怒っているのは、十一番隊の副隊長。
呼んでと言われても、当然葵が簡単に呼び捨てるわけもなく。



「何か用ですか?やちるさん」

「むー…まあ良いや、水無月葵ちゃんでしょ?剣ちゃんがちょっと面かせって」

「…更木隊長が、ですか…」











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