――西流魂街第六地区
「みーかーちゃん♪」
「……げ」
猫なで声で姿を見せた良々へ、手にいくつかの切り花を持った美花が露骨に顔をしかめた。
そんなことは微塵も気にせず真新しい隊服を着た少女はニコニコと見つめ返す。
「あんた何回ここに来てんのよ」
「えぇーだってぇー。まさか美花ちゃんが花屋やると思わなかったしぃー」
美花は黒い隊服ではなくなり、静かな色の浴衣を着て花を整えていた。
面白そうに見てくる良々の視界をふんっと払いのける。
「その昔の私の口調やめて。それから私はただの売り子だから冷やかしならお断りよ」
「アタシここの常連なのになー」
「うちの看板のバカ高い花を三本くらい買ってくれたら常連って認めてあげるわ」
連れない態度に、ちえーと良々が店先の椅子に腰を下ろした。
「つれない女は嫌われるのに」
「あんたは馴れ馴れしいの。大体ね、名前を変えろって言ったのは私だけど、もうちょっと良い名前考えつかなかったの?『さくら流々』なんて語呂悪いにもほどがあるわ」
「なっ何よ。名前に花二つ入れてる人に言われたくないんですけどー」
そこまで言い合って、その内どちらも堪えきれずに少し笑った。
結局どっちもどっちなのだ。
美花はじょうろで店先の花に水をやり、良々もとい流々はいくつかの椅子を使って寝そべり空を眺めた。
「あんた仕事は?」
「街にお使い頼まれたついで」
「どうなのよ、最近」
「んー、化粧塗りたくってる頃よりは悪くない。そっちは?」
「誰かを恨んでた頃よりは悪くないわ」
「ふーん」
一度伸びをすると、よく晴れた空がもっと視界に入ってきた。
じゃあ、結構幸せなんじゃない?と空を眺めたまま流々が聞いた。
そうかもね、と空を眺めたまま美花も答えた。
「あー!
そう言えば私風音のすっぴんまだ見てない!カエルの池に落とした時、マスカラと言わず全部見ときゃ良かった…」
「まだ言っとるでこいつ」
昼過ぎ。
三人で屋根の上の昼食を済ませた後、何気なく東流魂街の方へ歩いていた。
誰が言い出したことでもない、自然と足が向いた。
良々のすっぴんすっぴん言っている乱菊へ、いつか五番隊へ行くことを進めてみようと思いかけたギンと葵(すっぴん見たこと有り組)だった。
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