午後になると大抵どこかの屋根で昼寝している姿を見かけるので、それなりに天職かも知れない。
ただ『あの』十二番隊長と上手くいっているかは不安だが。



「でも少しは葵離れしてるのかも知れないわよ」

「それが朝起きると大抵布団の上で寝てるんですよ」

「そらあかんわ…」



そこまで話し終えた時、ちょうど総隊長室前にたどり着いた。
断りを入れて部屋に入ると、そこにいたのは一週間ぶりになる元柳斎の姿。

どことなく今までよりも穏和な雰囲気のような気がした。



「お久しぶりです総隊長」

「うむ」



眼前に座った三人を眺めて、一度トンと杖をつき直す。




「長い休暇はどうじゃった?」

「……身に余ります」

「ふぉっふぉっ、実にそうらしいの。安心せい、明日からはきちんと仕事をさせてやろう」



その言葉に葵が少しだけ反応した。
零番隊に移る際、その当時在籍していた九番隊は抜けている。
また新たにどこかの隊へ入らなければ、仕事は出来ない身だった。



「葵の希望は取らないの?」

「そうしたが本人はわしに委ねると言ってきたのでな、こちらで決めた。お主は新しく三番隊に入るがよい」



その言葉が出た瞬間、数秒の間ギンと乱菊の思考が停止し。

そしてすぐ。




「…よおっしゃああ!僕の時代やああー!」

「ええっズルいわよギン!総隊長何で!?」

「何となくじゃ」

「おおきに総隊長!」

「ふざけんな総隊長!」



またぶっ飛びかけてきた乱菊をどうどうとなだめ、話の続きを聞こうとする葵。
しかしそれでも収まらない二人のテンション。

これから先の生活をしていく場所なので、かなり持つ意味合いが変わってくる。





「よりによって何であんた!?」

「お前今まで葵取ってたやん。順番やろ平等やろ公平やろ」

「う……」



そう言われてしまっては反論できず、小躍りしている男を悔しそうに睨み付けた。



「総隊長はん、葵三席にしてもええ?空いてるんや」

「好きにせい」

「え、いやそれはさすがに……」

「なして?葵は今まで隊長やったんやから、隊長や副隊長でもおかしくないで?」

「ですが、今まででも八席でしたし……」



地位が好きではない葵の当然の反論。
しかしこればかりは、ギンと乱菊にも説得の余地があった。





「隷従の誓いとか言うん、まだ続いてるんやろ?」

「……あ」



してやったり顔のギン。
葵と同じような声を出してその内容を思い出した乱菊。

以前に空から受けた説明では、相手よりも下位にならないという誓いを込めたおまじないに近いもの。
しかも空や七猫はほとんど真似したようなものだが、本当に正式にこの誓いが行われていた家は。





「…殺那、ですか」





檻神殺那 現在の所属場所九番隊第三席

すなわちそれ以下には、なれない。
なろうとすればすぐにでも殺那は自分の地位も引き下げるだろう。



「だから檻神の奴、家に帰らないで九番隊に戻ったのね」

「考えたなあ」



半ば呆れたような面持ちでそれを聞いていた葵だが、どこかしてやられたという息を吐いた。
反論は出来そうにない。




「…仰る通りのところへ行きます」

「うむ、ならば明日からはそこに属するが良い。ちなみに他の隊員は一・二・五・六・七・十三番にちゃんと配属されたからの」

「あーら良い分散。こりゃ判子もらう隊室巡りが楽しくなるわね」

「時間がかかりそうですけどね」



行く先々で元零番隊隊員に取り囲まれるのが目に浮かぶようだった。



「それにしても、今回は零番隊の記憶は消さないんやね」

「結局、零番隊の記憶があった方が犯罪の抑止効果があると分かったのじゃ。のう市丸」

「なして僕に聞くん?」

「お主と馴染み深い男の企みも、失敗に終わったようだからのお。何、分からぬなら良い」



話は以上とのお達しが出たので、三人で礼をして部屋を後にした。

隊員の分散について話しながら来た廊下を歩いていると、曲がり角を小走りで走ってきた隊員が乱菊に衝突して転んだ。



「きゃっ」

「っと、あらごめん!大丈夫?」

「は、はい……」



多少オドオドとしながらも差しのべられた乱菊の手を取って立ち上がる。
その片腕には綺麗な花を生けたばかりの花瓶が抱かれていた。



「花も無事で良かったわ」

「はい、ありがとうございます……あ、あのっ」

「ん?」

「最近五番隊に配属された、さくら流々と言います。よろしくお願いしますっ」

「あらそう、よろしくねー。職務頑張ってね」

「はい!」



小さく手を振って三人で角を曲がった。
廊下の向こうで、「流々さん街にお使い行ってきてー」と早速仕事を言い渡されている声が聞こえた。



「あの子いつも隊室に花を飾ってくれるって雛森が喜んでたわ」

「ほー」

「うちもそういう子が欲しいわー。花と言えば、美花とか今頃何してるのかしら」

「さあ、何でしょうね」



何も答えないかわりに、葵は花瓶に生けてあった綺麗な花を思い出していた。



 



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