ギンと乱菊の留守中に、変わった格好の死神がやって来た。
葵が顔を上げるとそれは女性で、その隣にはいつも来る男の死神がいた。

自分が水無月葵という存在かどうか尋ねられた。




「…そうですが」



返事をしたところでかけられる言葉は同じだと知っていた。

死神になる気はないかな。

死神になればこんな危険と隣り合わせの生活はしなくてもいいよ。



何度も何度も、一人の時も三人の時も繰り返し発せられたそれ。
安全な暮らしなら欲しい。
食べる物を探すのに追われる生活も、寒さに震える寝床も、無くなれは良いと思っていた。
けれど。



「結構です」



葵は迷わずに、何度目にもなる答えを告げた。
危険と隣り合わせの生活はしないに越したことはない。
それが、三人一緒でなら。



知っていた。

死神に誘われているのは自分一人だと言うことに。
その安全な生活にギンと乱菊は含まれていないことに。



「これは決まっていることなんだよ」



女の隣に立っていたいつもやって来る男の死神が困ったように笑いながらそう言った。

決まっているとは何だろう。




「決まっていること。君がずっと八十番地区に楔を打たれていたのも強い霊圧を持っていたのも決まっていること。ただ一つ、あの二人と出会うことだけが決められていなかった」







何を、言っているんだろう。
同じ言語のはずなのに意味は少しも汲み取れない。



くさび?


きまって、いた?







「君は二代目になるんだよ」

「…何の、ですか」



その日その時初めて、葵はそれの存在を知った。

自分が求められている先を知った。


男の死神は小さく。






「零番隊、だよ」






そう呟いた。









――――――……


今日は近くに住んでいる紙屋が寸法を間違えた紙を私とギンにくれた。
配達を手伝った報酬の、更におまけなんだそうだ。

紙なんて普段見たことも触ったこともない。
きっと葵は知っているかも知れないと思ってそのままもらった。
使い道を尋ねると。



「使い方、うーん…紙の使い方はいっぱいあるからなあ。手紙に使うのが一番簡単なんじゃないか?」

「手紙って、何?」

「文字で文を書いて誰かにあげるものさ」

「話した方が早いんちゃうの?」

「いやいや、話すとその場で終わりだろ?文字にするとずっと大事に残るんだよ。普段面と向かって言えないことも文字だと楽だからね」





なるほど、と私は素直に納得した。
でも私達に手紙を渡す相手なんて…



「あ!ねえギン、これで葵に手紙書かない?」

「いや僕ら文字なんて知らんやろ」

「そんなのどうにだってなるわよ、子どもなんだから。ねぇおじさん文字教えて!」

「本気なんかい…」



紙屋のおじさんは結構すんなり承諾してくれて、書きたい言葉の文字を教えてくれた。
もらった紙は一枚だから私とギンで一言ずつ書くことにする。

私はあっさり決まったけど、ギンは初めての筆を持ったまま長いこと考えていた。



初めての文字。

初めての言葉。



上手く書けないことも、子供なんだから子供っぽいことしか書けないのも分かってる。
それでもあんなに胸が躍った。





「もうこの際ぶっちゃけちゃいなさいよ!」

「嫌やわーそのテンション…」

「だってあんた素直じゃないんだもん。こんな時くらいじゃなきゃチャンスないでしょ?」

「…………」



そう言うと珍しく言い返さないで、おじさんに言葉を告げて教えてもらっていた。
人のものはあまり欲しがらないようにしていたけど、ギンの書く言葉を見ると少しだけ私もそれを書けば良かったと思った。

素直じゃないのは私の方だ。



羨ましく思って、だけどそれでも、その言葉はやっぱりギンだけの言葉のような気がして。
少し真面目な表情のギンをからかいながらそれが書き終わるのを見届けた。



 



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