扉をくぐっても、もう首からかけている鍵を使うことはない。
零番隊の隊室は封鎖をしないことに決まっていた。

真っ直ぐ続く薄暗い廊下は所々の窓枠から光が差し込み、穏やかで、悲しい。



それが終わりを迎えた証のようで、少し持っていた帯の箱に視線を落としていた時。







「葵」







どちらの、声だろう。

少しも似ていないはずなのに、昔からよく間違える。

二つともとても好きで、そして本当に優しい声をしているから。





顔を上げるとギンと乱菊が小さく笑いながら立っていた。






「…終わりました」



全てのことが、平穏を取り戻す全てのことが。
また明日からは今までと同じ、三人の明るくて賑やかな時が返ってくる。
それを分かってるから、どちらもあえて言わなかった。

並んで総隊長室まで歩き出す。




「皆良い顔して出てったわよー。空は超綺麗に転んでたけどね」

「何や卒業式見とるみたいやったわ」

「そうですね、そんな感じでした」

「それじゃあ葵が教師になっちゃ…あながち似合わなくもないわね」

「うーわ怒ると絶対怖いわその先生」

「そんな事ないですよ」




小さく談笑しながら廊下を渡り終えると、外との壁がない縁側に出た。
裏庭だ。

雪の重みに負けそうだった椿の木は新しい花と立派な花をつけていて、冬が終わった季節の中でも映えていた。
蛙の池に太陽が反射してキラキラと光っている。




とある春の一日。


燕が何羽も飛んでいった。








「…今日は、良い日です」



ぽつりと呟いた葵の口元が微笑んでいるのに二人とも気づき、そして共に笑いながら、切り取られた暖かい風景を一緒に見つめていた。






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浮かべる笑顔が増えたこと 君は知らないんでしょうね



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