夢を見た。
俺の髪がまだ長かった頃の夢だ。

いつも起きた時には寝ている間に見た夢など忘れてしまっているものだが、前から何度となく見るこの夢だけはいつも克明に覚えている。










「葵様、総隊長は…」

「ええ、許可を下さいました」



総隊長室から出てきた葵様を待っていた俺の瞳が一瞬だけ動いたが、どうにか押し殺すとすぐに消えた。
拳を固く握る。
そして夢の中の俺が気づく。



ああこれは、あの『解散』が決定した時の場面だ。





「…終わりなんですね」

「そうですね。ずいぶん殺那にも迷惑をかけました」

「いえ、そんなことは…」



いつもならすぐに口から否定の言葉が出てくるのに、今はそれ以上言うことが出来なかった。
気づかれてしまう。
声の震えを。
心の動揺を。

未練を引きずる、弱い自分を。



こんな日が来ることを知っていたはずなのに。





「殺那、なぜ零番隊が『零番隊』と付けられたか知っていますか?」

「…え?」



不意に発せられた葵様からの質問。
しばし戸惑うが、頭はきちんと答えを考える。

考えてみると不思議な話だ。



「護廷十三隊が数字続きだから…いえ、それなら十四番隊でも良いですよね。わざわざ数字を『零』に戻すこともない」

「はい。それは総隊長率いる一番隊よりも上にあるという意味もありますが、本当の意味は消えることを前提に作られたからです」



零。それは無。
役目を終えれば消えていく泡沫の隊。
それが自分達だと、葵様は仰った。



「瀞霊廷に平和が戻ったのなら、これ以上私達があり続けるのは無意味です。それならば、消えましょう」



静かに話す君主は初めて会った姿と何も変わらず、強く、美しかった。
この方についていこうと決めた時にいずれ来るだろう解散の話は何度もされたはずなのに。

何もかも、まったく付いていかない。



「空や隊員達には総隊長から説明があります。どうやら私では情が移ると見たようです」

「……そうでしょうね」



淡々とした口調は感情を感じさせない。
けれど一瞬、ほんの一瞬だけ、葵様が少し瞼を下ろして。








「とても、寂しいです」



静かにそう呟いた。


 



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