そしてほんの少しだけ昔のことを話した。
美花と会ったことがあること、私怨が誤解だったこと、本当にそれくらいだったけれど。
それでも隊員達は理解を示してくれた。
「じゃあ一応一件落着、にはなったのよね?」
「一応、ですけれどね」
一応でも何でも、今まで続いてきたこの鎖が終わるならかまわなかった。
思わず緩みきった顔をしてしまった乱菊をギンが茶化し、また少しだけ室内は笑った。
全てを払拭するように。
それから各々は仕事を始めたし、葵は待っていてくれたギンや乱菊と仕事をしながら話をした。
それでも。
空気は落ち着くのを認めてくれなかった。
大きな音を立てて見回りに行っていた席官の一人が隊室へ飛び込んできた。
息を切らせて葵を見つけるや否やすぐに叫ぶ。
「大変です水無月隊長!」
「どうしました」
「さっき他の隊の様子を見回っていたら対応が今までと違ったので不思議に思っていたら、花椿さんが…!」
息が上がりすぎて言葉がうまく出てきていない。
近くへ呼び寄せて落ち着かせてから、もう一度言ってもらうと。
「花椿さんが、水無月隊長と同じように…」
「同じようにとは?」
「ほ、他の隊の人や今まで花椿さんの味方だった人に、建物裏に連れ込まれて行きましたっ…」
「「「!」」」
連れ込んだ人数とあまりの怒気に一人で判断は出来ないと、出来る限りの速さの瞬歩で帰ってきたらしい。
今までの経験からあの世渡り上手な美花が小さなことで他人をそこまで怒らせるのは考えにくい。
「何か聞こえませんでしたか?」
「いえ、ただ怒っている声と…『騙したな』的な台詞しか…」
騙したな。
それはつまり。
今まで葵がやってきたと思われていたこと全てが自作自演だったと、隊員達に露呈した証。
けれどその話をしていたのは執務室で誰かに聞かれることは決してない。
そうなれば、周りに美花の実態が知られる方法はただ一つ。
「…美花さん、あなたは…」
本当に小さく小さく、葵が唇を噛み締めた。
雪解けの薄く暖かい日。
椿の花は全て落ちていた。
→Next
…自分の中で けじめはつけるから
← →
back