「様々な物に形を変えるため、蒼鼎は刀の形をしておらず、常に葵様が首からかけている鍵の中にいるんです。鍵が震えたり光ったりしている所はお二方とも見たことがあるでしょう」


「…ああ、あるわ」

「普段は蒼鼎は鍵の中にいて、葵様は蒼鼎の入れ物だった鞘を持ち歩くために型どりをした木刀を下げているんです」





一度きりのあの戦いの時、葵が刀を抜くことはなかった。
抜く必要がなかった。
本体である蒼鼎は鍵の中にいるのだから。







「…ちょっと待って、それじゃあ葵は…!」



そこでようやく乱菊が気がつく。
殺那が口惜しそうに拳を握って頷いた。

そう。
いつも持ち歩いている斬魄刀が木刀なら、全てが始まったあの自演の時。







「……葵様は花椿を斬りつけられるはずがないんです」











―――――…


カランと音を立てて木刀が床を転がった。
それを見た美香が無意識に自らが切った腕を撫でる。
葵はただ、無表情のままだった。

全てが始まったあの時、大勢集まった隊長達の前で今と同じようなことをすれば。
一度でも自分の刀が木刀であることを見せていれば。


一瞬にして葵の疑惑は解けたはずなのに。

美花の顔を斬りつけたのは自演であると、誰もが分かったはずなのに。

物語は終わっていたはずなのに。



葵はそれをしなかった。
だからいつも言っていたのだろう、自分から濡れ衣を着たと。
着る必要のなかったそれを、自分が着込んだと。







「な、んで…?」



美花の口からはそれしか出ない。
頭の中も、それ以外を侵入させない。

なぜ、どうして、だってあんたはー…






「あなたには、嫌われるべきだと思っていました」





その一言を聞いた美花の目が見開かれる。
信じられないと言うように口元を押さえた。



「あんた…覚えてるの?私のこと……」

「はい、花椿美花さん」



綺麗な名前ですね、と呟いた葵の前で、どこか決壊したように泣き出した美花を見て。
葵は申し訳なさそうに、静かに目を伏せた。









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そうして今までと同じように思い出すのです
昔出会った悲しい一人の少女のことを



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