その全てを見透かすような瞳が嫌だった。
何をされても動じない心が嫌だった。
いつでも感情を出さずにいられる顔が嫌だった。





水無月 葵と言う存在が嫌いだった。



だって。






「べ、つの理由なんてあるわけないじゃない!馬鹿じゃないの!?私を救いたいなんて言うならじゃああんたが死んでよ!それが私の幸福なんだから!」



「分かりました」

「………え?」





それはいつもと変わりなく。
普段何気なく交わす挨拶のように、静かに答えて。
葵は自分のすぐ横に突き刺さっていた美花の斬魄刀を握った。
チキリと音を立てて抜き取ったそれを自分の胸元へ向ける。



「何、す…」

「これが本当にあなたの望むことなのだとしたら、私はそれに応える責任があります」







「あなたのために、死にましょう」







刀の切っ先は簡単に葵の胸に突き刺さった。
どれほどの力を要したのか、すぐに太刀の半分ほどが体に埋まる。
血をほとんど流さずに、葵は目を閉じてゆっくりと倒れた。





「なっ…」



あまりにも突然に起きたその行動にこれ以上なく目を見開く美花。

ああそうだこの女は。
人のためになら何でもするんだ。






ぴくりとも動かない葵の近くで膝をつくと、もう呼吸すら感じられなくなっていた。



「う、そ…嘘…あんた、馬鹿じゃないの…?」



ねえ、と体を揺すっても反応があるはずがない。
くしくも、その目を閉じた顔はどこまでも美しい。



「ねえ、ちょっと、起きてよ!起きてったら!ちがっ…私は、そんな…」



急加速した現実に色が戻り、そこから涙が溢れ出た。
そこには目の前で『人』が死んで戸惑う表情ではなく。

『葵』が死んで戸惑う表情があった。


今まで重ねてきた物が全て音を立てて崩れて行く。





「ごめ、ごめんなさい、こんな…っこんなことが欲しかったんじゃ…」








「こんなこと望んでない…っ」










「…それが本心なんですね」

「!」



突如背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはさっき生きていた頃と変わらない葵が立っていた。
驚いてもう一度正面に向き直ると残っていたのは畳に突き刺さった美花の斬魄刀だけ。

何が起きたのか分からない美花に、葵が一歩近寄った。



「私の斬魄刀は望むものを霊圧で体現することが出来るんです。『私』と言えば、もう一人の水無月葵も出してくれます」



それを見せるように葵の隣にもう一人の葵が現れた。
さっき見た、目を閉じた死人の顔をしている。
一体いつから偽の葵と話していたのか。

それはすぐにフッと消えた。



「生死を冗談にはしたくなかったのですが、あなたの本心を聞くにはこれしかないと思いました。すみません」



謝られても怒りも何も沸き上がってこなかった。
ただ葵が生きていたと言う事実に、へたっとその場に座り込む。
隠し続けていた心の壁は壊されてしまった。
今目の前にある存在の死の虚像にすがってしまった。

全て、さっき言った葵を狙った理由が嘘であることを示すものばかり。







「…あなたに秘密を教えます」

「…秘密?」




そう言うと、以前とは逆に座っている美花の前で立っている葵がスラリと斬魄刀を抜いた。
直感的にああ斬られるのだと確信し、力が抜けきった体でせめて目を閉じた。

それでも、葵が抜いたであろう刀を構える様子も振り下ろす様子もなかった。
そのために再び開いたその二つの目は。

信じられない物を見た。



葵が抜いたその斬魄刀は。








「…木刀?」























―――――…


「え…木刀なの?葵の斬魄刀」



殺那から教えられた真実に、乱菊が返した。



「はい。葵様の斬魄刀である蒼鼎は代々零番隊の隊長に受け継がれる物で、持ち主の言葉にあわせて霊圧で姿形を変える能力があります」



それは生涯葵と一度だけ刃を交わした殺那だけが知っている能力で真実だった。


 



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