「…何でお前…」
「え?知ってて当然だよぉ。だって美花がやらせたんだから♪」
その瞬間、頭の奥で何かが弾けた。
そうだ、この女は、葵に濡れ衣を着させただけではない。
直接的な元凶にして暴行の理由。
コイツガ
アイツヲキズツケタ
シャキンッと両手に斬魄刀の爪が生えるのと同時に、本能のまま美花に飛びかかった。
近づくまでの一瞬、美花が獲物を捉えた時のようなまがまがしい笑顔になって、ようやく今まで何のために葵を罵倒していたのかが分かった。
このためだったんだ。
それでも加速した体は止まることなく美花へ爪を振り上げた。
が。
「……間に合って良かったです」
「!」
開かれた扉の向こうに葵が立っていた。
触れる直前まで近づいていた刃がピタリと止まる。
「なん……」
美花が驚愕の表情を浮かべた時、ヒュンッとその背後に乱菊とギンが瞬歩で現れ。
その体を床へ組み伏せた。
「きゃ!」
あまりに一瞬の出来事に何が起きたのか分からず、せわしなく視線を動かしていたものの。
目の前にやってきた葵の姿に全てが失敗したことを悟る。
「乱菊、しっかり抑えとき。こいつ自分で腕くらい簡単に折るわ」
「勿論よ」
しっかりと腕を後ろで組んで立たされた。
七猫をあやしていた葵が、静かな瞳で美花を見つめていた。
「…何で私がここにいるって…」
「念のため、殺那にあなたの姿を探してもらいました。阿散井副隊長達が戦えば、注意はどうしてもそちらに向かってしまいますから」
本当はとっくに空の戦いは終わっているのだが、あえて美花に気取られないために結界と霊圧はそのままにさせてきた。
恋次達がここへ決闘を申し込みに来た時から、引っかかる物があった。
零番隊を潰したいのなら今のように一斉に来るのではなく、席の小さい隊員から順に潰していくべきだ。
現に以前の零番隊の時はそのような蛮行が後を絶たなかった。
「大勢で来れば広い場所に移動するものね、よく考えてるわ」
「どうせ留守番でもしてた隊員に斬りつけさせよう思ったんやろ」
「っ……」
憎らしそうに目の前に立っている葵を睨み付ける美花。
獣のような慟哭が刻まれた瞳が震えていた。
「美花をどうする気…」
「どう、とは?」
「とぼけんな!言っとくけど他の隊の皆に言ったってあんたの言うことなんか誰も信じないんだからね!」
そんなことはしません、と静かに美花の目を見返した。
そこにある鈍い光が誰の場所からも見て取れる。
ふ、とその右手が後ろにある執務室を仰いだ。
「積もる話がありますから、あちらでお話しましょう」
「あなたが自分からここへ来てくれるのを、待っていました」
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最後に笑うのはあなたじゃない 私でもない
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