「零番隊を打ち負かそうと加わってくるのは不思議じゃないですね」
「でも空が……」
と一人で戦っている空へ視線を戻すと。
「やっちゃうぞコラー!」
バリバリ元気に戦いを続けていた。
「…大丈夫そうやな」
「…あんだけ元気ならね」
葵が大丈夫だと言うことは大丈夫なのだとようやく教訓を思い出す。
特に問題なさそうな空を少し呆れながらも感嘆して見ていたとき、殺那が葵の元へ瞬歩で戻ってきた。
「あら檻神、どこ行ってたのよ」
「少々瀞霊廷内を回っていました。……葵様、やはり姿が見当たりません」
「……そうですか」
それを聞いて一瞬だけ葵の瞳がくもる。
そうして現在進行形で戦っている空を見やってから。
「市丸隊長、乱菊さん。少し頼まれてくれますか」
――零番隊隊室
葵の机の横で眠っている七猫以外、隊員は戦いを見に行ったので、心置きなく毛布の上で丸まっていたとき。
静かに隊室の扉が開いた。
「……?」
知り合いにはいない微弱な霊圧にむっくりと顔だけ起こすと、見たことのない女が入ってきていた。
見たことがなくても分かる。
花椿美花、だった。
「おじゃましまぁす」
これ以上ないほどの笑顔を向けたまま、部屋の真ん中に立っていた。
花の香水の匂いを嗅ぎとって、嫌そうに顔をしかめる。
「……帰れ」
「冷たいなぁ七猫君。美花の話も聞いてくれなぃ?」
「聞かない」
首を傾げて聞く美花に、全く目も合わせようとしない。
葵ならいないから、とだけ言って再び丸まろうとする。
ところが。
「あんな女のどこが良いのぉ?」
その一言に、丸まりかけていた体がピクッと止まった。
それを見て口角をつり上げる美花。
「だって無表情だし何考えてるか分かんないし殺那君達とかアゴで使って嫌な感じぃ。周りの人に嫌われてんのに全然気づかないなんて鈍くさくない?」
嘲笑するような話し方でペラペラと言葉を吐き捨てる。
お前が葵の何を知ってるんだと言いかけた口を押し込めた。
強い香水がまともな思考を奪っていく。
そこでようやく、七猫だけが気がついた。
香りの中に、微かに霊力が混ざっている。
この香りこそ、この女の能力なのかもしれない、と。
「あ、水無月達ならまだ中庭で戦ってて来ないから安心してねぇ。美花とゆっくりお話しよ♪」
頼りの綱であったそれもどうやらハッタリではないらしく、まだ空が戦っている霊圧が察知できる。
ここから中庭までは、遠い。
さっさとここから出ていきたいが隊室に元凶である美花を一人置いていくわけにもいかない。
こうして考えている間にも、美花は葵への謗りを続けていた。
それは少しずつ苛立ちに変わり七猫の中へ落ちていくが、その不快な思い以上に、この女が何をしに来たのかが分からなかった。
殺那が普段から、意図を探せと言っていた事を思い出す。
行動に理由は付いてくる、何のために相手がそれをするのかを考えればおのずと先は見えるものだと。
けれど、分からない。
「…でぇ、本当にトロいよねぇ。だからあんな男達にもボッロボロにされるんじゃない?」
「!」
その一言がやけに鮮明に七猫の中に入ってきた。
男達。
以前、七猫が袋叩きを受けた葵を見つけて、それを行った男達をズタズタに切り裂いたことがあった。
もうずいぶん昔のことに思える、ギンと間違われたあの事件。
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