「あなた!」
「な、何だよ…」
「零番隊の扉カッコよくしてくれてありがとうございます!」
乱菊達の方向から二名ほど滑った音がした。
「空、台詞を間違えてますよ」
「ええ!空何か違いましたか!?」
「いえ、ある意味あってますが」
「あの馬鹿…」
「…てめぇら早くしろよ…!」
とんだ茶番を見せる緊張感のない隊に多少こめかみが切れそうになっている恋次。
さて、と落ち着いた声で葵が言った。
「ここでは狭いから中庭に移動します。五席と六席は結界を張りに来てください」
「「はい隊長」」
指名された二人が先に瞬歩で場所に向かい、殺那が恋次達にも移動を促した。
そんな折、毛布の上から動こうとしない七猫に近づく。
「七猫はここで待っていましょうか」
「ん」
七猫の体については知っているので無理に連れていこうとはしない。
恐らく大勢の見物が集まる戦いの傍らにいるぐらいなら、ここで寝ている方が数十倍良いに違いない。
七猫が来ない理由はもう一つあるのだけど。
では行ってきます、と頭を撫でてから部屋を出た。
「葵…本当に空で大丈夫なの?」
廊下を移動している最中、乱菊が心配そうに聞いた。
「なぜです?」
「何や見ててハラハラするであの子」
「ああ、大丈夫ですよ」
空ですからね、と何とも不安な理由を言う。
どこかの隊員が言い触らしたのか、中庭にはかなりの見物客が集まっていた。
その真ん中に笑顔で手を振る空の姿が。
「……果てしなく不安だわ」
「まあ、見ていてあげて下さい」
結果。
「そりゃー!」
「「「ぎゃあああああ!」」」
空は強かった。
他の者へ被害が及ばないように五席と六席が張った結界の中を跳ねながらバッタバッタと相手を倒していく。
面白いように隊員達が吹き飛ばされていく姿は、まるで何かのショーを見ているようだった。
「…あの子強かったのねー…」
「零番隊の三席やもんなあ…キャラで忘れとったわ」
一人また一人と見えない何かに操られるように吹き飛ばされていく。
混乱したのか味方同士で戦ってしまっている者もいた。
葵の視線はほとんどが空を見ていたが、時折遠くにある零番隊の隊室にも向いた。
「そう言えば葵、七猫来てないけど留守番役なの?」
「いえ、先に言いますが空の斬魄刀は空気の伝わり方を操作して相手を操るんです。超音波、と言うらしいですが」
「ああ、それで向こうが同士討ちとかしとるんやね」
「はい。結界を張っているので本来私達には届かないはずなんですが、七猫は耳が良いので聞こえてしまうんです」
どうにも本人にとってはその超音波がうるさいらしく、キンキンする頭に耐えられないのでここに連れてくるのは酷だった。
「耳も鼻もええってほんまに猫やねえ…………なあ、葵」
今までのんきに空の戦いを見ていたギンの声が、急に鋭さを持った。
「阿散井君が連れてきた隊員て、あないに多かったか?」
言われてみると、倒れている隊員はすでに十人を越えている。
そして空が相手をしているのも十人を越えている。
「ちょっと、他の隊員まで混ざってんじゃないの?」
「…………」
結界は万が一のことを考えて、中のものは出さないが外のものは入れる形を作らせた。
恋次達の戦いに感化されたのか、今まで見ていた他の隊の隊員が次々と加わってきている。
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