「お前が葵様へ斬りかかるのは百年早いと思うがな」

「百年でも足りねーと思うけど」

「ぐ…っ!」



キィンッと音を立てて恋次が刀を力づくで鞘へ戻した。
その目にはわずかだか恐怖が宿っている。
そんな折、七猫が斬魄刀をしまってチョイチョイと葵の袖を引っ張った。



「何です?」

「この間、ここの扉傷つけられた時さ」

「はい」

「やったの、あいつ」

「「「!」」」



全員が揃って七猫が指差した先の恋次を見る。



「は…はあ!?」

「七猫、どうして分かったんですか」

「あの時扉から少し花の匂いがした。
あいつの刀にも同じのついてる」



小さく鼻をヒクッとさせて、七猫にとっては強すぎる匂いなのか少し渋そうな顔になる。



「花の匂いってことは…美花よね」

「ええ、でもあれは女性が出来るようなことではありませんから」



恋次は七猫に指し示されてから明らかに冷静を失っていたが、それでも気丈に振る舞って見せた。




「だから何だよ。そんなんじゃ俺がやったことにはなんねぇだろ」

「そうですね」



そう答えはしたものの、七猫の嗅覚の鋭さはよく知っている。
けれど今問題とすべきはそこではない。

恋次を含め十数人の隊員が今にも襲いかからんばかりの殺気を放っているのだ。






「…それで、ご用件は」

「美花に手ぇ出した奴がのこのこ隊長なんざやってると思うと腹が立ってよ。本当にこんな隊が俺らを仕切るのか確かめに来てやったんだ」



そう言いながら斬魄刀を抜いたと言うことは、戦えと言うこと。
スッと目を細くして思案に入る葵。
以前の零番隊の時もこういったトラブルは多かった。

恋次の反応からして美花に命じられたことは明白。
扉を傷つけられてから零番隊周辺には物への攻撃を防ぐために結界を張ったので、手を出せるのが隊員そのものしかなくなっていることも分かる。

しかし、やり方がどうにも不自然だ。
今までの美花にしては。






「…仕方ありませんね」



はあ、と表情を何も変えずに息だけを吐き出して。



「あなた達の相手をすれば良いのですか」

「そうだ、分かってんじゃねぇか」



恋次が連れてきたのは十数人。
なるほど、と呟いた。



「それならこちらは一人で充分です」

「……何?」



その言葉に多少ならずとも怪訝そうな顔をする。
堂々とそう言ったため、一人で十数人を相手に出来るだけの存在として当然葵が戦うのだろうと予期したのだけど。





「空」

「っは、はい!」

「少し戦ってくれますか?」

「はい喜んで!」

「えええええ!?」



その指名に思わず叫んだのはやはり乱菊だった。



「え、葵!?」

「何です?」

「何ですって、恋次よ?十人以上いんのよ?」

「そうですね」



しらっと認めて。



「空は大丈夫ですよ」

「はい!頑張ります!」



決定権をもつ葵がそう言うのならば確かにそうかもしれないが、今までのどこか抜けている空の姿からすれば不安が満載だ。
ただでさえ多勢に無勢だというのに。



「見てみなさいよほら、恋次達だって『あいつ倒していいのか…?』みたいな顔になってるじゃない」

「むー。なら空だって言いたいことがあります!」



しっかりと足を鳴らして恋次の前まで詰め寄る。
零番隊の扉をあんなふうにした犯人を見上げながら、ビシッと指を差した。


 



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