怖いのだろう。
今のあの姿を見ることで、ギンや乱菊が七猫を嫌いになるのではないかと。
普通はあんな姿を見てしまえば変わらず接し続けることは難しくなる。

けれど。







「何だ、そんなことだったの」

「え?」

「私達だって捨てられっ子だったんだから、同じようなのした事あるわよ。ねえギン?」

「せやなあ」



何でも無いと言うようにカラカラ笑う乱菊。
くしゃっと空の頭を撫でた。



「松本様も市丸様も?」

「せやで。捨てられた子皆にあるわけやないみたいやけど、あれほんまにキツいからなあ。暴れんのも不思議やないわ」

「そうそう、結局誰かに止めてもらわないと止まらないのよね。ギンは止めるの下手くそだったし、大変だったわー」






まだ三人で流魂街にいた頃。
捨てられたあの時を思い出して七猫と同じようなを行動を取った時は少なくなかった。

夜中にふと目を覚ました時。
何か昔を思い出してしまった時。
甦るのは最後に自分を見たあの目と冷たい言葉だけで。
体の震えが止まらなくなる。




世界にいるのは自分一人だけになってしまったような感覚。

暗く寂しい海に沈んでいくような感覚。


もがいてももがいてもどうにもならない、やってくるのは酷く強い淋しさと恐怖だけ。




抑えられない震えと心臓の動悸、おかしくなってしまいそうなその発作を、受け止めてくれたのは葵だった。

困惑して暴れそうになった自分達を、逃げも抵抗もせずにただ抱き締めてくれたのは。
自分達よりもずっと小さい体で懸命に手を伸ばして、「大丈夫ですよ」と言ってくれたのは。

いつも葵だった。






「しばらーくしたら私達の場合はもうそんなことも起きなくなったから、七猫もそうなると思うわよ。だから心配するんじゃない」



嫌いになんてならないから、と言うと。



「はい!ありがとうございます!」



いつものように元気に空が笑った。

それからすぐに葵が「お騒がせしました」と隊室の扉を開けて出てきた。
中に入ると隅に寄せた机は元に戻っていて、七猫もいつもの毛布の上で丸まって眠っていた。



「のんきな奴やなあ…」

「猫ちゃんは『アレ』があった後は疲れて眠っちゃうんですよー」



そう言いながら自分の席へ戻る空と同じく、何事もなかったかのように仕事に戻る隊員達。
慣れているのだろう。

何度も七猫が暴れるのを見てきて、対処して、いつかはまた暴れて。
それでも誰一人、この猫を嫌う者はいなかったのだろう。








「葵。あんたの隊って、本当に良い隊ね」



そう言うと、顔を上げた葵が優しく微笑んだ。





「はい。私の自慢です」








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…なぜ皆さん顔が赤いんですか?



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