(言うなって何よ?自分の隊員の机でカエルが死んでんのよ?
しかもこんなっ…)



「こんな、スプラッタみたいな…」

「水無月がやったんじゃないですか?」

「!」



横から男の隊員が口を挟んだ。
美花がずっと後ろに隠れていた隊員だ。
それが誰かと言うよりも、何を言っているのかが全く理解出来なかった。



「あんた何言ってんの?葵がそんなことー…」

「花椿をあんな目に合わせた奴なら有り得ますよ。そいつが勝手に抽出にんなモンを入れたのかもしれません」


「はあ?何のために……」

「もう結構です」



抑揚のない声で葵が言った。
ジロ、と隊員が葵を睨むが、そんな視線なんて無いと言うように自分の抽出を外した。
両手一杯の幅がある抽出の中には見るも無惨な死体が転がっている。



「どうする気だ」



ようやく口を開いた日番谷へ視線を合わせて。



「処理してきます」



処理とは、中身を取り出してくると言うことだろう。



「おい、サボんじゃねえよ」

「あなたははそんなにカエルと仕事をしたいのですか?」



と言う葵の一言にチッと舌打ちをして黙った。
その隊員以外で五月蝿く言ってくる者はいなかったので、日番谷の沈黙を肯定と受け取り、隊室を後にする。

扉から出るとき、近くにいた男隊員が。



「それ集めんの苦労したんだぜ?」



と嘲笑するように抽出を指差してからかった。



「暇なんですね」



と言い捨てて扉を閉めた。










嫌な匂いがする。
血と肉とあと何かだろう。
何処へ行けばこのこびりついた血の染みと肉塊を取ることが出来るだろうか、と考えているところへ、乱菊が追ってきた。



「ちょっと葵…!」

「はい?」

「うわっソレ持って振り返らないでよ!あっち!あっちやって!」



あっちにやれと言われても両手で抱えているためあっちにやることが出来ない。
しょうがなくまた乱菊に背を向けた。



「…あれ、あんたあのでっかいカエル連れてきたの?」



見ると、葵が抱えている抽出の中に、飛びかかってきた大きなカエルが鎮座していた。



「知らない間に乗ってました。乱菊さんに慈悲の心があるなら、そこにあるバケツも持ってきていただけませんか?」

「コレ?この緑色の…」



廊下の壁側に置いてあったバケツを覗きこんだ乱菊が。



「っきゃ「叫ばないでくださいね」……はい」



カエルが詰め込まれたバケツを、素直に(だけどかなり嫌そうに)持ってきてくれた。



「何よこのカエルの折詰めバケツは…っ」

「隊室の扉に挟まってました」

「うえ…で、あんたはどこに向かってんの?」

「裏庭の池です」



仕事中からか人気のない廊下だからか、誰ともすれちがわずに裏庭に来られた。
葵が乱菊からバケツを受け取って、中のカエルを池に戻してやる。
その時のカエルの喜びようをあの男隊員に見せたかった。



「…あら、意外と愛嬌あるのね」

「そうですか?」

「こうやって、安全な所から見る分には可愛げがあるわ」



抽出の中の大きなカエルも逃がしてやり、緑色をした生き物はおおよそ水の中に戻った。
残りはこの、真赤になってしまった生き物だ。
その肉片を頭の中で繋ぎ合わせて、一、二、三、四、五……と数えて。


「問題は…このスプラッタよねえ…」



四肢を切断されたカエル。

腹を裂かれたカエル。

中から破裂されたカエル。

潰されたカエル。

その血文字で『しね』。


それらを無表情で見つめながら、葵が何の躊躇いもなくその中に手をつっこんだ。



「ちょっ葵……」



グチャッ



耳を塞ぎたくなるような嫌な音がした。
挽き肉を練るときの音だ。
思わず乱菊が目を反らす。

葵は両手ですくうようにカエル達の死骸を取り出すと、池に返した。
地面に埋めなかったのは、たぶん。
地上よりも水中の地面に埋めてやりたかったから。

淡々とすくっては返す作業を繰り返す。
浮いてきた物は水底を掘って埋めてやった。
指が、手の平が、手首が赤く染まっても、気にしていない。



「葵……あんた、気持ち悪くないの?」

「特には」



台本でも読んでいるようにそう言う。
この口調は葵の美しいかんばせと相性が悪い。
まるで彼女には心が無いように受け取られてしまうのだ。
本人の中には葛藤も悩みもきっと人らしくあるだろうに、乱菊やギンでも見逃してしまうくらい潜んでしまう。



「手の汚れは洗えば落ちます。でも触らないと……返してあげられません」

「……そうね」



またすくって、池に放つのを繰り返す。
沈んでいく仲間の残骸の回りでカエルがすいすい泳いでいた。
ああそうか、と乱菊もようやく気がつく。



(ただ葵は…カエルを哀れに思ってるだけだったのね…)



普段から感情が見えないから、この死骸処理も事務的に行っているものなのだと思っていた。
仕事をするのに不便だ、という程度かもしれないと。

けれど、本当はただ故郷から離れた木の板の上で殺されていったそれらを。
悲しく、惨めに、思っているだけだったんだろう。
自分と重ねてしまうから。





―――――――……


「さてと、こんなもんかしら?」



しばらく葵と抽出の処理をしていた乱菊が、手を洗いながら言った。
結局自分も手をつっこんだのだ。
中身を出し終えて一通り拭いた抽出は思いのほか元の姿に戻った。
血の染みも目立たなくなっている。



「良かったわねー匂いも残らなくて」

「手伝って下さってありがとうございます」

「別に良いわよ、これくらー…ってああ!隊長にちょっと散歩してくるって言って抜けてきたのよ!やば!!」



すぐさま濡れた手を拭くと時間を確認した。



「これ以上いたら疑われるわね……私は先に戻ってるから、少し時間を開けて戻ってきたほうがいいわ」

「はい」



パタパタとせわしなく乱菊が戻ろうとしている中、そうそうと思い出した。



「あの男達が言ってた事なんて気にしないのよ」

「何か言ってましたか?」

「……あんたらしくて凄く良いわ、何でもない」



それじゃあね、と去って行った。
今すぐ戻れば乱菊に続く形になって隊員達に怪しまれるから、その間の時間をここで潰すことにする。
日が射して拭いた抽出も乾いてきた。



(カエル…か)



一匹嬉しそうに近付いてきたカエルを見て、あれだけ乾いていたのにもう復活していることに感心した。
そんな時。





「隊内暴力の次は、職務怠慢かい?」



ふと、後ろで咎める声がした。
今まで池を見つめていた葵が振り返ると。
吉良と藍染が立っていた。
憎々しげにこちらを睨んでいる。

その後ろに。
あの女の姿があった。





「花椿君が、君に話があるそうだ。」




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次はカエルに生まれてこよう 



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