「むしろやられたのが扉で良かった。同じことを松本様や俺達がされれば葵様は深く悩まれるだろう」

「そうだね」



会話に一区切りつき、席官全員が自分の席についたとき、開いたままの扉からフラリと七猫が入ってきた。
寝起きらしい。



「あ、猫ちゃんおはよー」

「……ん」



言葉少なに葵の元まで行き、机の横にある毛布の上で早々に丸まった。



「でも扉をかっこよくはしてもらいましたけど、その内に壁とかをかっこよくされても困りますよね葵様」


(空第三席本当にあれカッコいいと思ってるんだ…)

(すごいな…)



その他の席官の内心は幸運にも悟られることはなかった。




「ええ、多少なりとも守りはしましょうか」

「隊室の周囲に結界程度の鬼道を張れば並の隊員では入れないかと」

「そうですね」



殺那の言葉にぐるりと隊室を見渡す葵。



「あれ、九席の永久ちゃんいないです」

「七八九席には一日交代で別の仕事を頼んでいるんです。なので五席の黄泉と六席の更紗、結界をお願い出来ますか」

「はい」

「はーい」







そんな会話の折。
小さく七猫が顔を起こして何かに気がついたようだったが、眠気には勝てないのかすぐにモフッと毛布へ顔を戻した。




















――――――……


昼。
昼食を終えたギンと乱菊が、昨日と同じように遊びに来た。



「葵、何か零番隊の扉カッコよくなってるわね。リフォーム?」


(((松本様と空第三席の感覚同じだ!)))





「かっこいいでしょう」

「僕には傷だらけにしか見えへんけどね……」



まだ何とか普通の感覚を持っているギン。
それでも、風当たりの悪い零番隊が扉に何をされたのかは聞かないでいてくれた。

二人が葵の座っている隊長机の前まで来たとき、朝から寝ていた七猫がようやくむっくり起き上がった。
それを見て、「あら、ギンの宿敵のお目覚めよ。」と乱菊が軽い冗談で言ってみたところ。


バチィッ


両者の視線の間で火花が飛び散った。







「へーえ……君が僕に似とる言う七猫君やの」

「……お前が俺に似てんだろ」

「残念やけど僕の方が年上やからなあ、こっちが先や」










「……ギンが威嚇してるわ」

「あの笑顔はそういう類いの物ですね」



「…猫ちゃんが威嚇してる」

「ああ、俺にも無いはずの立った尻尾が見える」




どす黒い笑顔を浮かべるギンと、シャーッと総毛立てて威嚇を続ける七猫の間で今にも冷戦が起きようとしていたとき。
二人の顔を交互に見やっていた葵が。



「七猫、頭を撫でてあげましょうか」

「うん」



そう言った瞬間コロッとギンに背中を向けて葵の隣にちょこんと座った。
自分と似ていると言われ続けた忌まわしいギンの存在よりも、葵に頭を撫でてもらう方が重要らしい。



「すいません市丸隊長、七猫もまだ落ち着いていないので。また今度喧嘩を売ってあげてください」

「別に僕は喧嘩売ってへんよ」

「バリバリ売ってたじゃないの」



葵の取り計らいでどうにか揉め事もなくその場が終わった。
撫でてもらった七猫がどこか満足そうにまた毛布の上へ戻る。



「こいつだけ自分の席持ってないのね。四席なのに葵の隣だし」



確かに四席が隊長机の隣に並ぶことはあり得ない。
しかも自分の席はなく、毛布の上で過ごしている。

本来なら葵大好きっ子の空や副隊長である殺那が異議を唱えてももおかしくないのだけど。


 



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