だけどそれから、空は葵様とお話が出来るようになりました。
葵様がいつもの場所に立っている時はもっと近くに行けるようになりました。

葵様が東流魂街を見て立っている時、空はその足元で雪に絵を書いていたりするようになりました。
時々顔を上げて葵様の姿を近くから見るのが、何より好きでした。



いつも同じところを見ている葵様は透き通っているようでした。
凛としていて静かで、それでも怖いくらいに無表情で。
確かに綺麗、だけど。





…どこか寂しそう。





そんなときに、「何を考えているんですか?」と聞くと、その時だけは空に視線を合わせて。



「昔のことです」



とだけおっしゃいました。
空は葵様の昔を何も知らなかったけど、何となく聞いてはいけないことなんだろうなと思いました。






「空はどうして私を葵様と呼ぶんです?」

「せつなさんがそう呼んでいたからです」

「ああ……『殺那』ですか」



その時ようやく空はせつなさんが物騒な字の方の『殺那』なんだと教えてもらいました。
空に声をかけたのも、実は殺那さんがそうするように言ったからなのだとか。

殺那さんは寒さを心配して迎えに来るたび、葵様の近くにいる空を見て少しだけ驚いていましたが、それでも何も言わずに葵様とどこかへ帰って行きました。
二人ははどこへ帰るんだろう、と思っても後をつけるのは二人があっという間にいなくなってしまうので出来ませんでした。

葵様は何番隊の人なんですか?と尋ねても、答えてもらえたことはありませんでした。





それでも空は葵様が好きでした。
ただ側にいさせてくれる葵様と、何も言わないでいてくれる殺那さんが好きでした。
不思議な人で、空が雪に絵を描いているのもどこか楽しそうに見守ってくれました。






葵様といるときだけは空は元気になれました。






ある日一番隊でのように「うるさい」と言われるのが怖くて、空のテンションや声の大きさについて恐る恐る葵様に尋ねました。
けれど葵様は、「私は元気な空が好きですよ。」と言ってくれました。
本当に、嬉しかったです。





「葵様!今日はお昼の間ずっといますか?」

「ええ、いますよ」

「やった!じゃあ空もここにいて良いですか!」

「もちろん良いですが、お昼休みを全部使ってしまいますよ?」

「それはいいんです、ここにいる方が楽しいのです」

「…そうなんですか?」

「あ、えと、空は一番隊の人にあまり好きになってもらえてないので」



これは葵様によけいな気を使わせたくなくてずっと言っていなかったけど、空には嘘をつくことが下手だという欠点があります。
ならば言ってしまうしかないのです。



「空はこんなに明るいのに、なぜでしょうね」

「空はうるさいですもん。それにほら、空は貴族なんたらの力で一番隊に入ったって皆さん言ってますから、仕方ないです」



あはは、と笑って軽く言いましたが、葵様の目は全てを見透していそうで怖いです。
だからその日はいつもの倍くらい元気にしていました。






葵様は元気な空を好きになってくれたんです、それなら一番隊での死んでしまいそうな空なんて、知らなくて良いのです。



 



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