「私は簡単に許されない事をあなたにしてしまったのに…」



そう言いながら悔やむように唇を噛んで腕の中にいる葵を見下ろした。
こんな自分を母親のようだと言ってくれたのは、いつだったか。
自分を責め続ける卯ノ花に葵は、それなら、と言って。



「許すかわりに、一つだけお願いをしても良いですか」

「お願い…?」



ええ、と柔らかく自分を抱く者を見上げて。






「……卯ノ花って呼んでも、いい?」




その言葉に、少しだけ驚いたような顔をした卯ノ花の目からはまた涙が溢れる。
けれどその顔は、微笑んでいた。



「ええ、ええ、もちろんよ、葵」



何度も何度も頷きながらそう声に出して、もう一度葵を抱きしめた。
まるで大切な我が子を抱くように。
















―――――――…


葵をドッキリにはめた後、出された椅子でくつろぐギンと乱菊。
世間話目的で来た乱菊はともかく、VS七猫が狙いで来たギンの目的は当人(猫)の昼寝により叶わなかった。
人とは思えないほど見事に丸まって眠っている。

殺那から『特別接待』ということで乱菊達との雑談を許された空が嬉しそうに笑った。





「市丸様と松本様は昔の葵様を知ってるんですよね?」

「知ってるったって今と全然変わらないわよ?」

「でもでも、葵様と一緒にご飯作ったり遊んだりしてたんですよね!いいなー!」



始終乱菊達との会話にウキウキしっぱなしなのは、葵についての会話だからなのか本来の性格からなのか。
驚きや疑問には顔を変えても常に笑顔を絶やさない存在と言うのは久しぶりに見た。



「しっかしあんたは元気ねえ、昔からこうなの?檻神」

「残念ながら昔からです」

「失礼なー。こう見えても昔の空はすっごくおとなしい子だったんですからねー!」

「悪いが信憑性は0だな」

「殺ちゃん絶対悪いと思ってないよね!」



笑顔でそう返せるあたり、強者だと感じた乱菊。



「でも葵様の小さな頃を知ってる松本様達がうらやましいですー……」

「ほんまに葵が好きなんやねえ」

「はい!空は葵様と皆が大好きです!」



パアアッと顔を明るくして、この上なく嬉しそうにそう言った。



「空は殺ちゃんよりも葵様のことが好きな自信があります!」

「ちょっと待て」



おもむろに書類を片付けていた殺那の霊圧がふりかかった。



「今の言葉は聞き捨てならない」

「存分に聞き捨てて良いよ殺ちゃん!」

「聞き捨てられるか、誰がお前などに負ける」

「葵様のこと好きなの?」

「尊敬だ。お前のとは格が違う」

「格が違うのに喧嘩売るなんて大人気ないね!」



ビシッと指を指されて正論を言われたことでまた空は殺那の心の琴線に触れ。







「お前ら、今日の仕事は全てこいつがやるから押し付けて帰れ」

「あ、マジっすか三席」

「ありがとうございまーす」

「さすが三席ー」

「え゙え゙ええぇ!?」








一つの再会と一つの談笑が辺りを包む中。
柔らかい空気が辺りに満ちていた。
過去の別れを消すように。







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でも葵様が一番好きなのは松本様と市丸様だよ、殺ちゃん
やめろ、知ってる



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