「人をナメているのか、どいつもこいつも。一度でもここへ来てやろうと思った俺が間違いだった!」



最早黙っている事も出来ず、口から感情を吐き出しながら廊下を早足で歩いた。
時折通る他の死神が振り返るが、気にもとめない。

らしくもなく頭の中が熱い。
馬鹿にされたことへの憤怒か苛立ちかは定かではないが、今にも体の全てが爆発しそうだと言うことにかわりない。





「ち…くしょう!」



人のいない東流魂街側の敷地へ来てようやくそれだけ叫んだ。
腹立たしい、腹の底に黒い物がこびりついたようで気持ち悪い。
いっそ全てを吐き出せたら楽なのに。

嗚呼、苦しい。
自責と、期待と、現実に押し潰されそうで、もう長い事息がまともに出来ない。
それを分かっているのに、それを人に向かって吐き出すことも出来ずに。


誰か、助けを求めるように顔を上げた。

その時。






白が 目に入った。









何の前触れもなく、ただ一瞬のうちに頭の中が白くなった。
顔を上げた視線の先にいる女性。
なぜだろうか、その人の髪にも服にも色はある。
それでもどうしようもなく。
白い人だと思った。

その人は視線をはずすことなく東流魂街側の瀞霊壁を見つめていて。
その瞬間呼吸も感情も止めてしまった。



俺はきっとあの時、見惚れていたのだと思う。




スッと不意にその人が瀞霊壁から視線をこちらに向けた。
色のない瞳。



「…!」




吸い込まれそうなその目と目があったとき、ようやく気がついた。
その人の着ている隊長服が、他の隊長と色合いが逆だと言うことに。



「…お前…」

「……どなたですか?」



当然のように向こうは俺を知らない。
あの総隊長は本当に何も伝えていなかったようだ。
その事実が一瞬冷静さを取り戻した体に再び熱を灯した。

俺はほとんど無意識のうちに斬魄刀を抜いた。





「…俺の相手をしろ」



ピタリと女の喉元に刀の先を向けて睨み付けたが、相手は少しも表情を変えない。
どこか人形のように凛とした表情を保ったままだった。



「……あなたは?」



喉元に凶器を当てられていると言うのに小さく首を傾げた。



「俺は檻神殺那……お前の副隊長にさせられる男だ!」



言葉に込めた力のまま喉元へ刀を振り切ったが。

すでに女は俺の背後にいた。



「貴、様……!」



こちらの憤怒など少しも配慮にいれずに、それはただ淡々と俺に告げた。




「……私には、あなたと戦う理由がありません」

「こちらにはある」

「けれどやはり私には無いのです」



色が無いのに鈍い光を隠していそうな視線は俺の目から離そうとしない。



「あなたもこのままではただの闇討ちでしょう。ですが……」



女がフッと視線を下ろした。



「あなたが本当に副隊長になる存在なら明日また来てください、総隊長に確かめます。その時は、お相手しましょう」



慎重な提案だった。
腰からさしている斬魄刀を抜こうとしないのはただ単に億劫だからか、俺をナメているからか。
部外者を傷つけたくない、だけか。



「…良いだろう、明日のこの時間に同じ場所にいる。お前の名は」



俺よりいくらか小さい女は、透き通るよく響く声で答えた。







「水無月葵です」
















――――――……


その日の夜、総隊長室にて。



「葵や、副隊長候補とはもう会ったようじゃの」

「…なぜ早く教えて下さらなかったんです?」

「うっかりしておったんじゃ」



はあ、と無表情でため息をつく葵をよそに、反省の色もない元柳斎。
それでも昼間に何が起こったのかくらいは把握している。



「…して、本当に相手をするのか?儂はお主が戦うところなど一度も見たことがないぞ」

「仕方ないでしょう。副隊長になる存在には、私のことを知っていてもらわなければ困ります」

「ふむ」



元柳斎は少しの間考えるそぶりを見せたが、やがて杖の上で手を組んで。



「よろしい。明日その場所に霊圧用の結界を張ってやろう」

「ありがとうございます」

「…しかし檻神が初めてじゃのう」

「何がですか?」

「お主に直接不満をぶつけた奴じゃ」



それを聞いた葵は、そうですね、とだけ言って苦笑した。


 



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