この工場は今も県内のどこかに存在している!!!! | ナノ




02

 そしてその社長の娘婿が、このロクデナシ野郎である専務である。動けない社長の代わりに、働く……というよりは好き勝手にやらかしているといった方がいい。

 専務は腕を組んで、そのアルバイトの女の子(確かまだ女子高生だ、入って日が浅い)の動向をじいっと見つめている。

――まぁた、犯すみてえな目つきで見てやがる

 専務はのしのしとその女の子に近づいて行ったかと思うと背後から手を回してその子の手を掴んだ。

「手が遅い! そんな事してると日が暮れる。いいか、ちゃんとこうやって……」

 女の子の手首を掴みながら専務はレクチャーという名目のもと、色んな場所を触っている。可哀想に、おとなしそうな女の子は何も言い返せない。その目が今にも泣きそうに潤んでいる。自分も含めてだが、周りは皆見て見ぬふりだ。

 というか、この職場の空気――がそうさせるのか、皆疲弊しきっていて、何も言わない。

――そうだ、

 この会社、空気が淀んでいるんだ。吸い込む空気全てに黒っぽい色でもついている感じだった。ここは目には見えない悪意、憎悪、欲望が渦巻いている空間だった。肺の中はどんよりとした空気で満たされて、いつしか負の感情でいっぱいだ。

 みんなみんな、死んだ魚みたいな目をして「とりあえず」働いている。

 それなのに何故か辞めない――辞められない。それぞれに、様々な理由があった。亡くなった、先代の社長に恩義を感じているからとか。この不景気で職が見つからないだけとか。辞めようにも辞めさせてもらえないとか。伊沢のように今辞めるわけにはいかないとか……そもそも自分は何故ここへアルバイトに来ようと思ったんだろう?

 その理由ははっきりとは思い出せないから不思議なものであった。

「見ろよ、専務の奴。今度はおでぶちゃんに絡んでやがるぜ」

 堀澤はよく喋る奴だ、そんなに口を動かせるなら手の方も動かして欲しいものだ――と時々思うのだが。

 ちら、と伊沢が視線を上げた先にいたのは配送担当の男性社員だった。まだ三十代前半にしてはかなり出たお腹と、まるで巨大な駒を思わせる身体つき。

 仕事の出来ない彼は、専務にとっていい憂さ晴らしの道具であった。

 彼はその若さにして糖尿病を患っているらしく、その影響で片目が見えていない。しょっちゅう運んでいる物を落とす――今朝も、どうやら何かしでかしたらしかった。

 その事でぶちぶちと専務の執拗な言葉責めにあっているらしい。そりゃミスを連発する彼も悪いかもしれないが……専務だってあまりにもしつこいし、元より彼を雇ったのはお前だろうに――ちゃんと教育してやらないアンタにだって責任はあるよ、と伊沢は思った。

「あのおでぶちゃん、多分包茎だろうな」

 ケラケラと隣で堀澤が笑った。

――どうだっていいよ……。そんな事は

 グチョグチョと、赤いすり身をこねながら伊沢は思った。

「見ろよ、でぶ君の悲しそうな顔。あのでぶ、何て言うかでっけぇチンポが歩いているように見えるよな」

 堀澤が喉の奥で可笑しそうにくくく、と笑った。堀澤の悪意たっぷりの言葉は極力耳に入れないようにしているのだが、これには少々なるほどな、と思ってしまった。

 いわゆる下半身デブというその体型のせいと、盛り上がった後頭部の肉。背面から見れば腰から下が睾丸のようで、頭のてっぺんなんかは亀頭を彷彿とさせる。

 腹の肉のせいか膝をあまり持ち上げない、地を這うようなその歩き方も相まってか何だか出来の悪い、それもとびっきり下品な粘土アニメでも見せられている気分だ。

 男性器型のクリーチャーが今宵も女性を食いまくる!――そんなところか。伊沢は鼻先でそんな自分のアホくさい想像を笑って見せた。

 それと、堀澤の言葉はそれ以降、一切無視した。


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