執事×生徒会長
誰も居ない生徒会室。それは1時間前も同じだったはず。
「さっきから何もしていない……ははっ、凄かったな」
けれど俺は…心の底から笑ってしまった。
椎原の登場から始まって、役員と転入生の退場。劇的に状況は変わっている。
ゆっくりと帰り支度して、生徒会室を後にした。
寮の役員階はシーンとしていたが、たぶん防音設備が良いからだろう。
俺が部屋に入ろうとしたと同時に、エレベーターが開いて椎原がフロアに降り立つ。
「では、雷雅様の今後のお話をしましょうか」
その言葉に逆らうこともせず、俺はカードキーを差し込んだ。
いつの間にか用意されていた夕食を完食し、食後の紅茶を啜る。
「雷雅様には、放課後の時間をサボっていた分の補習に使っていただきます」
「ちょっと待て!生徒会の仕事はどうする気だ?まさか、あいつらに任せるのか?」
「彼らには反省の為の奉仕活動と補習が待っています。今のところ、学校内の清掃活動をさせる予定です」
みずみずしい果物を摘まみながら、椎原は淡々と話す。
「私と園城寺に縁がある学生で仕事をしますので、お気になさらずに勉学に勤しんでくださいね。他に、何か質問はありますか?」
全ては決定済みのようだ。
「もう無い。まぁ、1カ月はお前の世話になるよ」
椎原は満面の笑みを浮かべた後、急に立ち上がり俺を姫抱きした。
「おい!何のつもりだ!」
「まずは不足している睡眠をとっていただきます故、寝支度をいたしましょう」
俺は椎原に洋服を剥ぎ取られ、風呂場へと押し込まれる。
「お風呂場でのお手伝いも必要ですか?」
「要らねえよ!!」
怒りの消えた椎原の笑みに安堵しつつも、からかわれるのは面白くない。
俺はブツブツと文句を言いながら、言われた通りに行動するしかない。
風呂を上がれば、卸したてのタオルと寝間着が置かれている。
着替えた所で椎原が入って来て髪を乾かしてくれた。
この甘やかされる感じは懐かしい。
「お痩せになられましたし…髪もキューティクルが落ちましたね。これもあの転入生の所為ですか……」
「ふん、お前が1カ月も居るなら…そのうち戻るだろう」
椎原は珍しく負抜けた声で「そうですね」と呟いた。
嫌がる俺を再び姫抱きにし、全てが新しく替えられた寝室のベッドへとそっと降ろされた。
「添い寝は必要ですか?」
カーテンを引きながら、椎原は甘い声で囁いた。椎原の「飴と鞭の癖」が再発している。椎原は怒った後は、すごく甘やかしてくるのだ。
宿題を終わらせた後は美味しい茶菓子をくれたし、受験が終わった後は旅行に連れて行ってくれた。
愛情に飢えていたと言えば…その通りかもしれない。
「ああ、俺が寝るまで居てくれ」
昔を思い出して言ってみれば、椎原にしては珍しく「ええっ!?」と大声を上げた。
「何だ…お前から言ってきた癖に…」
「失礼いたしました」
「でも、汗臭いし埃っぽいから、まずシャワー浴びて来い」
「はい、わかりました」
颯爽と部屋を出ていったと思えば、すぐに水音が響いてくる。
その音が心地よく、段々と瞼が閉じていってしまった。
「雷雅様?」
「……ああ、寝そうになってた」
「いえ、それが目的ですので……失礼いたします」
俺と同じ香のする椎原は、ゆっくりと横に並ぶ。
そっと髪を撫でられ、久々に感じる他人の体温に安心を得る。
「…さっきのやつ……セフレとかは…嘘だから」
「もちろん知っておりますよ。ほら、もう寝てください」
「ん、おやすみ」
最後に見たのは、椎原の優しくも艶やかな微笑みだった。
規則正しい寝息が聞こえ始めた時、額にキスをが落とされたことに俺は気づかない。
「おやすみなさい、雷雅様―――――――愛してます」
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