「何をしているの?」
黄金に輝くまんまるの月を背景に、幼いときから嫌と言うほど見てきた、赤く紅い眼は俺を見ながら呟いた。
「レッド…」
その眼と同じ意味を成している名前を無意識のうちに発すると、レッドは近頃よく見せていた不気味な笑顔を俺に向けた。
「ねぇ、何をしているの?」
再びのこの質問をされる。
何をしているなんて、聞かなくてもわかるだろうに、昔からこいつはそうだった。
誰でもわかるような質問を俺に何度もしてきて、馬鹿にしたように答えると嬉しそうに「ありがとう」と微笑むのだ。いくら心の広い俺だとしても、そんなかくだらないことを続けられると嫌気が指して無視しようとする。けど、あの微笑みはずるいだろ。
惚れた相手にそんな顔させられるなら何度だって答えてやるさ、絶対に。
だから今回だって仕方ないから答えてやる。またあの微笑みが見られるのなら。
「何って?そんなこと見りゃわかんだろ、食事だよ、食事」
そう、食事。
グルメな俺は食材を求めるために夜な夜な街を歩き回ってるんだからな。
ほら、答えてやったんだからあの顔を見せてくれよ、早く、早く、
「…そっか、でもねグリーン、そんなもの食べちゃ駄目だよ」
「え?」
吃驚した。
まさかお礼以外の言葉が返ってくると思わなかった。それに食べちゃ駄目って。
「何言ってんだ、料理したのは俺だぞ?うまいに決まってる」
「そりゃグリーンが料理したんだから美味しいだろうね」
いまだにあの笑顔をしているレッドに俺は持っていたナイフを突き付けた。そして返答。
「なんだわかってんだったらなんでそんな」
「悪いのはグリーンじゃなくて素材、悪いのは素材、」
まだ言い終わらない内に言われて、突き付けていたナイフをさらに近付けた。喉仏スレスレってとこかな。
だがそれに驚くことも恐怖することもなく、紅い目を鈍く光らせレッドは続ける。
「そんなどこの馬の骨ともわからない“奴”を食べる必要ないよ」
そう言ってレッドはゆっくりとナイフを俺の手から奪う。あまりにも自然だったので反応することができなかった。
「な、返せよ!」
ワンテンポ遅く反応し立ち上がると、先程まで食べていた“奴”の腕だったところを踏んでしまった。ぐしゃりと不快な音がなる。あぁ、もったいないことした。
「ねぇ、食べるなら僕を食べてよ」
そうして俺から奪ったナイフを自分で首に突き刺した。何度も何度もそ、迷いなく突き刺して、こから綺麗な見慣れた赤い液体が吹き出る。あ、溢れてる、もったいない。
「……」
首に突き刺したため声を出すこともできないのだろう。だが先程と変わらない表情のまま俺のことを見ている。ただじっと、見慣れた赤い紅い眼を俺に向けている。お俺はまるで操られたようにレッドの首筋へとかじりついた。
ふと下を見るとレッドと俺が料理した奴の血が混ざっていた。何故だかそれが無償に悔しくて、レッドのを全て飲み干してやる勢いで吸い付いた。じゅるじゅると音が響く。そのことに優越感を感じる。
呼吸が苦しくなってきたので名残惜しく思いながらも口を離す。とっくに意識のないレッドはどさりと音をたてて地面に打ち付けられる。仰向けに倒れているため、月に照らされ顔がよく見える。見て、驚いた。
「は、はは、なんだ、お前、俺に食われたかったのか、」
その表情は本当に嬉しそうに微笑んでいた。
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人喰いグリーンと1つになりたかったレッド