iii

リーダーが行ってしまい、廊下には俺以外の人は見えずとても静かだ。

あの人は本当に仲間思いのいい人なのだが、今回ヨシノリの部屋にはアキエがいるだろうから邪魔になるのではないだろうか。そんなことを考えていると、赤色をした組の通信機が振るえた。


「はい、ヤスタカ。…はい…はい、了解しました。直ちに向かいます。」


こんな時に呼び出しとはついてない。
とりあえず預かったままであったリーダーのコートを部屋まで持って行こうと思ったが、この嫌味なほど長い廊下を走って行っても、呼び出しに遅れる可能性がある。我が組は時間に厳しいため遅れるのはなんとか阻止したい。
あまり喜ばしい方法ではないが、この際だ、仕方ない。
廊下の隅に置いてあるコートラックにコートを掛け、胸ポケットから緑色の"班用通信機"を取り出す。通信機にはトキワ班のメンバーのみ登録されており、そこから一人の名前を探した。


「あ、もしもし?サヨ?悪いんだけどリーダーのコート持って行ってくれない?いつものラックに掛かってるから…そう、ありがとう。ちゃんとお礼はさせていただきます…」


そうして通話を切るなり白い私用携帯を取り出し、とあるブランドの菓子折りを注文した。あぁ、思わぬところで出費が…。
こう何台も通信機を持ち歩いていると邪魔で仕方ない。入りたてのころはイライラしていたものだが、今では慣れたものだ。それに、それぞれ色も大きさも音も形も異なっているのだ、間違うことはない。

さて、そろそろ向かわなければ。このままここでダラダラとしていたら高い出費が無駄になってしまうし、さらに減給されてしまうかもしれない。そんなことになったら堪ったもんじゃない。
というかこの出費はリーダーのせいでもあるのだからリーダーに払ってもらうのもいいのだが、これまでの一生かかっても返しきれない多大な恩があるので、それはどうも俺のプライドに反する。
仕方ないと苦笑いして、廊下を戻り、司令室へと足を進めた。


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bkm
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