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「リーダー!」


呼ばれて振り返ると、軽い足取りで長い廊下を走ってくる一人の姿が見えた。


「おかえりなさい、お疲れさまでした!」

「おう、ただいま、ヤスタカ」

「コートお預かりしますね」


このような姿を見ると、ただの上司思いの好青年にしか見えないヤスタカだが、昔は色々と荒れていた。
今ではその面影は見えず、俺の部下として側に置いている。


「今回はいつもより簡単に終えたんじゃないですか?」

「そうなんだよなー、全然手応えのないひ弱な奴ばっかでつまんなかったんだ」

「だと思いました」


ヤスタカはにやりといやらしい笑みを浮かべて、内ポケットから一枚の白い紙を取り出し、どうぞ、と渡してきた。
その受け取った紙を開け、中身を確認する。


「あの馬鹿…」

「本来ならリーダーが出るような幕ではなかったんですが、その手紙にあるようにヨシノリが少しやってしまいまして、代わりに回ってきたんです」


動かしていた足を止め、ヤスタカのほうを振り返る。
見るとヤスタカは、イタズラが成功した子どものような笑顔で、どうかしましたか?と尋ねてきた。


「この俺がヨシノリの代わりを任されただと?お前、そんな仕事引き受けてくんなよ!!」


ヤスタカには現在、俺の世話係を任せている。
その世話係の仕事として、俺の仕事を選ぶ作業もあり、これは俺のことをよく分かっていて、信頼できる人物にしか勤まらない。だからこそヤスタカに任せたというのに、こいつの茶目っ気のせいで度々面倒事を押し付けられることがあるのだ。
それを今回もやられてしまったらしい。


「いやぁ、グリーンさんならすぐに終わらせてくれるかと思って」


ヤスタカは俺がどんな反応をするのか分かっていたようで、イラつく笑顔を崩そうとしない。


「お前何考えてんだ!それに俺のことはリーダーと呼べ!」

「あぁ、すいませんでした、リーダー」

「くっそ、こんな仕事なら別に俺じゃなくてヨシノリでも手余りだったろうに…」


ヤスタカに呆れさえ覚え、先程まで歩いていた廊下を戻ることにした。


「おや、どちらに?」

「ヨシノリんとこ」


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