たまには
※スぺレグリ




ふと変な時間に目を覚ましてしまった。
今から寝なおす気にもなれず、リビングに移動し、目的もなくテレビをつけると安っぽい深夜ドラマがやっていた。チャンネルを変えることなく見続けていると、何故だか最近顔を見ていないあいつの声が聞きたくなった。

こんな時間だ、返事が返ってくることもないだろうと思いつつもテレビを消し、ポケギアから見慣れた名前を選択してコールを鳴らす。
期待していなかったわけではないが、きっとこのコール音を断ち切るのは毎度お馴染みお留守番サービスの女性の声だろうと諦め、その声を聞く前に電話を切ろうとした時だった。


『もしもし』


懐かしい声がポケギアから聞こえた。
まさに切ろうとしたときに出られたものだから、頭が真っ白になり何も答えることができない。


『…もしもし?グリーン?どうした?』


返事がないことを不審に思ったのかあいつ、レッドは、大丈夫かと心配そうに話しかけてくる。
しかし、何か言わなければと考えれば考えるほど何も言えずにいた。


「レッド…」

『グリーン!よかったぁ、返事ないから何かあったのかと思ったけど大丈夫みたいだな』


やっとのことで名前を呼ぶといつものようにうるさいけど安心する声でまくしたてられた。それからは吹っ切れたようでいつものように近状報告やら天気の話やらで会話が続いていった。


『そういえば』


話が落ち着いたときだった、レッドが言った。


『今日はまたなんでこんな時間に電話かけてきたんだ?何か大切な用があったんじゃないか?』

「ぇ、」


今更自分がしでかしたことに恥ずかしくなり、口ごもってしまう。
言えない。まさかお前の声が聞きたかっただけだなんて、どうしても言えない。もし言ったとして、こいつの気分を上げてしまうだけだとも分かっている。
どう返答したものかとぐるぐると考えていると、レッドが言いたくないことなのか、とさらに聞いてくる。どうしたらいいんだ…。


『まぁ、言いたくなくても聞くけどな!』

「は、」


俺が間の抜けた声を出すと同時に家のチャイムが鳴った。
このタイミング、嫌な予感しかしない。

重い腰を上げ、相手を確認せずドアを開けると、予想通り目の前には嬉しそうに手を上げるレッドがいた。


「来ちゃった」
『来ちゃった』


目の前の男と電話の声が重なり気持ち悪く聞こえるため、すぐに電話を切る。
相手確認しないでドア開けちゃだめだぞ〜、と言いながら家の中にずかずかと入り込んでくる男にどうせお前だと思ってな、と背中を追いながら答えた。


「で、どうしたんだよ?」


勝手知ったるという風にリビングまで来ると早々にソファに座り話題を振られる。
せめてお茶くらい出してやろうと冷蔵庫からペットボトルを取り出す手が止まった。


「…別にたいしたことじゃない」


コップを2つ用意しそれぞれにお茶を入れる。
リビングで待つレッドに片方のお茶を差出すとありがとうと軽くお礼を言われ隣に座ることにした。


「最初さ、グリーンから電話かかってきたときびっくりしたけどそれ以上にすごくうれしかったんだ」


まるで子供に言い聞かせるように優しく話しかけてくるレッドを不審に思い一瞥する。


「出てみたら無言だし何事かと思って焦ったけど、すぐいつもみたいに話せて安心した」

「そうか」

「…もしかして、なんか無理してる?」


思いがけない質問にレッドを見つめる。
こいつはいきなりどうしたんだ。
最近は仕事も溜まることなく順調に生活が送れている、はずだ。
今日はたまたまこんな時間に起きてしまっただけで健康に過ごせている。


「別に、そんなことないけどな」

「ほんとに?」


ぎし、と鈍い音をたてて距離を詰めてくる。
自然と見つめあう形になり、自然と唇が重なった。ちゅっと可愛らしい音をたてて離れていくとどこか物足りないと感じている自分がいておかしく思う。


「なんか、こういうの久しぶりだよな」

「ああ」


ふ、と笑みをこぼすとこいつも釣られたように笑い出し、互いに笑いあうようになった。
笑い続け、どれほどたったのか、また目が合いまた軽く口づける。
そんなことをしていると、どんどん心が満たされていくことを感じた。


「…なぁ、お前勘違いしてるぞ」

「へ?何を?」


俺の突然の一言に驚いたようで間抜けな顔をしたまま問うてくる。
馬鹿面、と笑いながらデコピンしてやると小さな悲鳴をあげて後ろに倒れ、俺もそのまま上に覆いかぶさるようにしてレッドに抱き着いた。


「無理なんてしてない、ただ、お前の声が聞きたくなっただけ」

「ぇ、」


耳まで赤くなっていることが分かる。
こんな恥ずかしいことまさか言ってやる日が来るなんて思いもしなかったけど、言葉にすることでレッドへの想いが増していくような気分だった。
顔を上げることもできず、抱き着いたままいると耳元で今日泊まっていくから、と熱のこもった声で囁かれる。
互いの心臓が早く脈打つことが分かった。
優しくしろよ、とくぐもりながら答えるとレッドが嬉しそうに笑う声が聞こえた。



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