昨日 今日 明日


ピンポーン


遊んで汚れてしまったイーブイを俺が風呂へ入れているとなんの前触れもなくチャイムが鳴った。


「うわ、誰だよこんな忙しいときに…」


手は泡だらけだし濡れたままのイーブイを放っておくことなんてできないので居留守でも使ってやろうかと思ったが執拗にチャイムを鳴らしてくるのでしかたなく、イーブイをお湯で洗い流して事前に置いといたストーブの側にタオルを被せて座らせて出ることにした。


「はーい、どちら様ですかー」


こんなに粘り強いのでどうせ訪問販売辺りだろうと思っていたのにそこには予想外の人物がいた。


「こんにちは!グリーンさん!」

「…ヒビキ?どうした?なんかあったのか?」


ヒビキは一応俺とレッドの後輩という立場にいるやつで結構仲良くしている。

リーグ制覇までしたくせに今も旅を続けているので会うことはない。

だが旅先の珍しいポケモンがいると必ず連絡をしてくるのであまり久しぶりという感じはしない。


「いえ、久しぶりに家に帰ったのでグリーンさんのとこにも寄っておこうかと!」

「なるほどな、遠かったろうに…まぁ入れよ」


俺はドアノブを引いてヒビキを家の中に招き入れた。


「わーい!ありがとうございます!あ、お菓子は持ってきたので気にしないでください」

「お、まじか。サンキューな」


俺はとりあえずヒビキを部屋に通し、断りを入れてから濡れたままのイーブイの元まで急いだ。

イーブイは俺がしてやっていたままの格好でうたた寝していた。
ちくしょう可愛い。

そんな様子のイーブイを軽く叩き惜しくも思いながらも起こす。


「おーい起きろよー燃えちまうぞー」


そうすると「きゅー」と鳴いて俺に擦りよってくる。

ストーブのお陰かもうほとんど乾いてしまっている茶色いふわふわの毛をドライヤーで軽く乾かした。

そこからブラッシングしてボールへと戻す。

いつも家の中ならボールから出して自由にしてるんだけど今日はヒビキがいるからしょうがない。

ボール(イーブイが入っている)を腰に付けてリビングへと急いだ。


「そ・れ・で」


目の前には客としてお菓子を食べているヒビキと家に入れた覚えもないシロガネ山の亡霊であり元チャンピオンであり俺のライバルであり俺の恋人である“あいつ”がまるで自分の家とでも言うように寛いでいる。


「あ、グリーン遅かったね」


ぬけぬけとそんなことを言ってくる。


「なんでレッドがいるんだよ!!」


何こいつ!俺がいつも降りてこいって言っても降りてこないのになんでこんな何でもない日に降りてくんの!?ていうかここは俺ん家だってのになに寛いでんの!?意味わからんこいつ!


「ここにいる理由を20字以内で説明せよ!」

「グリーン欠乏症だったので舞い降りてきた。」

「意味わからん!」

「ちゃんと説明したのに…」

「どこが?!!」


ヒビキがまぁまぁ、と俺を宥めて座らせようと促してきた。

ずっと立っておくつもりもなかったし腰を降ろす。

何も考えずにどかっと座るとレッドの隣に座ってしまった。
まぁいいやと思いレッドへ質問を投げ掛ける。


「で、いつ降りてきたんだよ?」

「…?さっきだけど」

「なんで答えるのに少し間があったんだよ…」


今の俺には些細なことで頭にきてしまう。昔からの悪い癖だ。


「なんでそんな当たり前のこと聞くのかと思って」

「はぁ?当たり前のことって言われても知らねえよ!お前がいつも連絡しないせいでな!」

「そうだっけ?」

「そうだ!」


レッドは心底不思議そうな顔して俺を見ていた。


「山を降りたときはすぐにグリーンの所へ行ってるからてっきり知ってるんだと思ってた」

「…はぁ?」


(な、なんだよそれ家に帰るでもなくポケセンへ寄るでもなく一番に俺のとこへ来たってことか?)


その事を理解したとたんに俺の顔に熱が集まってきたことがわかった。

今俺の顔は耳まで真っ赤になってるんだろうなと他人事のように考えてたらレッドがくすくすと笑って真っ赤だよ、と言った。


「う、ううううるせぇ!!」

「まぁまぁ、でも僕がどれだけグリーンのこと大切に思ってるか理解したんだよね?」

「…別に」

「つれないなぁ」


そう言ったレッドの顔はどこか嬉しそうだった。


bkm
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -