昼とは違い、暗くなった外に目を向けつつ上に乗っているレッドの体重を感じていた。
決して重いというわけではないがあまり気分のいいものではない。
先日のことだ、レッドに告白されたのは。俺はずっと幼なじみとして、ライバルとして、そういうどっちつかずな関係が続いていくものだと思っていた。
『好き』
ただそう一言言われただけだったが、いつもの気怠そうな瞳が緊張のせいか震えてその言葉以上のものを語っていた。最初こそ驚いたが、こいつはとうとうこの曖昧な関係を崩す気なのだと理解すると、心臓が大きく波打った。もちろん、断る理由などない。こいつが俺に抱いていた感情以上のものを俺は積み重ねていた自信がある。震える瞳から零れそうなものを拭うためなのか自然と身体はレッドの頭を包むように抱きしめていた。そして意を決し『俺も』と耳元で囁いた。
こうして付き合うようになったわけだが、如何せん、あの曖昧な関係が長すぎた。こうして部屋に二人きりでいたといても恋人らしいことなど何もできず、これでは今までの関係と何も変わらないではないか、あの時の決心はどうした、と内心苛立ちを募らせていた。レッドを一瞥すると、俺の本棚を勝手に探り雑誌のポケモンを見て和んでいるだけであった。ちくしょう、俺の気も知らないで…!
もしかするとこいつにとって付き合うとはただ形だけのもので、こうして側にいられれば幸せだ、なんて思っているのだろうか。ふざけんな!俺はもっと触れたいし、触れられたいってのに!
…などと悶々と考え込んでいたのだが、どうやらこの無気力野郎もやる時はやるらしい。
夜も遅くなり、いざ晩飯でも作るかと思い始めた矢先のことである。レッドがそろそろ帰る、などと言い出したものだから、咄嗟に『泊まればいいのに』と口をついて出たのだ。他意などなかった。今までだって何度も泊まっているのだ、今更ではないか。
しかし、言われた本人はどう思ったのか驚いた顔をしたかと思うと冷めたいつもの表情に戻り、そのままトンっと肩を押され、力の入れていなかった身体は鈍い音をたててベッドに倒れた。
「グリーンって賢いくせにこういうとこ抜けてるよね」
のろのろと俺の上に乗ってきたレッドはそう言うと俺の首に顔を落とし、ちゅっと可愛らしい音をたてた。
予想していたといえば嘘になるが、考えていなかったわけではない、このような行為に自然と曇った声が出る。あぁ、こいつにとって俺は下なのか、と楽観的に考えていると、レッドはすぐに頭を起こしじっとあの時と同じような潤んだ瞳で訴えかけてくる。
「なんだ、お前でもこういうことするんだな」
「…僕を何だと思ってるの」
「あー、バトル馬鹿?」
くくっと声を殺すように笑うと怒ったように『うるさい、否定はできないけど』と上から声が降ってくるので今度は声を出して笑ってしまった。何も喋りはしないものの黙れともう潤んではいない目が語っている。
悪い悪い、と軽くあしらうと背中を少し起こし、両腕をレッドの首に掛け、引き寄せた。
驚いたレッドの顔が目の前に広がっている。
「何のつもり?」
その一言に口角が上がる。
このようなことをしてやっても冷静を装いたいのか。まったく、仕方ねえから優しい優しい俺様がお前と違ってちゃんと言葉にしてやるよ。
「なぁ、レッド。お前知ってたか?俺さ、お前になら何されたって構わないんだぜ?」
そう言ってより腕に力を込める。
「それと、キスっていうのは唇にするもんだろ」
先ほどとは異なるリップ音が、この狭い部屋に響いた気がした。