今、ハム太郎と二人で近くの公園まで来ている。
何故こんなことになったのか、事の発端はハム太郎が発した『最近、近所の公園に綺麗なお花畑ができているのだ!』という一言からだった。丁度暇を持て余していたし、お花畑といえば女の子ウケ間違いなしのデートコースになる、これは行くしかないといつものメンバーを誘おうとすると、目の前のハム太郎は必死に二人で行くことを強要してきた。別に2人でも構わないが、いつもとは雰囲気の違った彼の姿を不審に思いつつこうして公園までやってきたのだ。
「トラハムくん!見て見て!」
確かにちかくの公園には、今まで見たことのないような、何種類もの花がこれでもかと敷き詰められていた。
「うわぁ!すごいな!こんな所があったなんて知らなかったよ!」
「えへへ、実はこの前ロコちゃんが連れて来てくれたのだ!僕の秘密の場所なのだ!」
そう言ったハム太郎のハムスターらしい小さな手にはその何種類かの花を集めて作ってある小さな花束が収められており 、あの無邪気な笑顔で、はい!と渡された。
「キレイだなー!これは女の子と来るべきだよ! 教えてくれてありがとな!ハム太郎!」
花束を受け取りお花畑へと走っていくと青く小さな花が咲き乱れているところを見つけた。
「見てみなよハム太郎!ここすっごくキレイ、な、」
話しかけようと振り返るが目的の彼がいないことに気がついた。そんなに遠くまで来てしまったのだろうか。
「ハム太郎ー!ハム太郎ー!どこだー!おーい!返事をしてくれー!」
声をあげて呼ぶが返事はない。まさか、何か凶暴な奴に…!?なんて考えたくもないことを次々と思いついてしまい鼻がツンとしてくるのが分かった。
しかし、今度こそ!と思いっきり息を吸い込み、意気を込める。
「ハムたろ、」
「おーい!トラハムくーん!」
「ッ!?!?」
今までどんなに叫んでも返事はなかったのにどういうことか、今黄色く光を浴びたハム太郎が手を振ってこっちに走ってくるではないか。
「は、ハム太郎!?お前、今までどこに!?」
「どこって、向こうのほうでこれを作っていたのだ!」
そう言ってハム太郎は黄色い花でできた花冠を差し出した。それならそうと言ってから行け、と叫びたくなったが嬉しそうに、恥ずかしそうに、笑う彼を見て何も言えなくなった。
「これ、この前ロコちゃんが作っているのを見て僕も作ってみたんだけど、あんまり上手にできなくて…でも、トラハムくんにもらって欲しいのだ!」
「えっ…」
予想外のことに頭が追いつかない。
え?ハム太郎が俺に?どういう意味で?
ぐるぐると思考をめぐらしながらも花冠を見つめているとえへへっと可愛らしく笑い黄色い花冠を俺の頭にぽすっと乗せてきた。
「うん!よく似合ってるのだ!やっぱりトラハムくんには黄色がよく似合うのだ!」
きゃっきゃっと嬉しそうにはしゃぐハム太郎を見ているとこちらも自然と笑顔になっていた。
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「トラハムくん」
「ん、どうした?ハム太郎」
しばらく座り込んで近状を話し合っていたのだが、急にハム太郎が真剣な顔をして見てきた。普段見ない顔にドキッと心臓が高鳴った。ん?ドキッ?いやいや…
「この場所…他の子たちに教えないで欲しいのだ…」
「あぁ、大切な場所なのか?」
「うん、あのね!二人だけの秘密の場所にしたいのだ!ダメかな…?」
顔を赤くして顔を覗き込んでくるハム太郎に先ほどと同じような胸の高鳴りを感じた。二人だけの 秘密の 場所 特別な場所になることに変わりはなかった。今まで意識したことのなかった感情がハム太郎へと向けていることに気がついた。理解すると顔に熱が集まり、燃えるように熱い。これまで女の子に向けてきた感情とは異なる、すごくもどかしいものだった。
「もちろん…いい、けど…」
「本当?!やったぁ!それじゃこれからここは二人の、二人だけの秘密の場所なのだ!誰にも教えちゃダメだよ!」
「うん…」
向日葵みたいな眩しい笑顔でやったぁ!と喜ぶハム太郎を横に俺は自分の気持ちに整理をつけるので精一杯だった。