(あ、ソウルだ…)
ちょうどポケモンセンターから出てすぐのところに小さな人だかりが出来ていて、興味本意で覗いてみると一番に眼に映ったのは久しく見ていなかった緋色だった。
「今だオーダイル!ハイドロポンプ!」
「次で決めるよ!メガニウム、ソーラービーム!」
大きな破壊音が生じ砂埃でトレーナー2人と、そのパートナーポケモンが見えなくなる。
どちらのポケモンが立っているのか、今まで騒がしく見ていた観客たちは息を潜めるようにそこを凝視している。もちろん僕自身も例外でない。
ひゅうっ、と風が吹き視界がはっきりとする。そしてそこに立っていたのは―――――
「やったぁ!勝ったよメガニウム!」
少女特有の高い声が響く。その瞬間、観客からは歓声があがりまた騒がしくなった。
負けたソウルはバトル相応のお金を少女に渡し少し話をすると、いたたまれないのかすぐに去ってしまった。
「…、っま!」
「あー!ヒビキくんだ!」
思わず出た静止を求める声は少女の声によってかき消された。
名前を呼ばれたために目を向けると、くくってある髪を揺らしながら手を降りこちらに向かってくる幼馴染みの姿があった。
「こ、コトネ?!」
「やっほー!久しぶりだね!私たちのバトル見てくれてたの?」
「私たちの…、バトル?」
はて、何のことか。
僕が見ていたのはソウルのバトルのはずなんだけどな。
「うん、私とソウルくんのバトル!」
「…え!?ソウルの相手ってコトネだったの!?」
「ちょ、ヒビキくんわからなかったの!?流石にそれは酷いよ!」
「ご、ごめん!」
まさかコトネに気付かないとはな…
これは後から怖いものだ。
「まぁソウルくんを視姦して私が眼中になかったってんなら許すけどね!」
「し、視姦!?」
たしかにソウルのことずっと見てたけど!視姦なんてそんな…、卑猥なことしてないし!
「ば、馬鹿なこと言わないでよ!僕がそんなことするはずないでしょ!」
「あー、焦ってるぅ!あーやしーい」
「怪しくない!」
「あはは、必死だねぇ」
「うるさいな!」
「でもさ、本当ヒビキくんってソウルくんのこと好きだよね」
「え!?な、なに言ってんだよ!」
「だってさ、ヒビキくんのソウルくん見る目が私とかレッドさんとかと全然違うよ!ごちそうさまです!」
「僕そんな…ソウルのことはただの友達で!」
「そこから逆転したいんでしょ?」
今までのはなんだったんだと聞きたいほど急に真面目な顔になったコトネに、僕は何も返せずにいた。
「ヒビキくんは奥手すぎるよ!もっとぐいぐいいかなきゃ」
「でも…、」
「まったく…そんな弱気じゃ誰か他の人に、」
とられちゃうかもよ?とコトネは裏がありそうな笑顔で言うと、さっさとどこかへ行ってしまった。
一人苦い顔で残された僕はどうすればいいのか。
コトネに邪心を送りつつ急いであの赤髪の彼を追いかけた。