「グリーンって可愛いよね。」
「…いい加減にしろよ」
いきなりジムまで来たかと思うと、前置きもなくそんなことを言われた。ため息混じりに返答してやるとニコニコと効果音が出そうな笑顔でこちらを見ている。
一体何なんだよ、こいつは!
つい二週間ほど前にイッシュから来たという少年トウヤは、ジムを訪れて見事俺に勝利した。
実力も申し分なく、これから期待できるなと内心喜んでバッジを手渡すとガシッと音がしそうなくらいの勢いで手を捕まれたのだ。
『グリーンさんって可愛いですね。』
それからというもの、毎日毎日ジムに来られては言われ続けたセリフ。正直慣れてしまい、今は呆れる他ない。しかも最近では呼び捨てにされてしまっている。
別に名前なんて特に気にすることでもないのでスルーしているのだが、べたべたと触られるのは気分のいいものではない。
「えー、可愛い人を可愛いと言って何が悪いのさ」
「俺は可愛くなんてねえよ、どちらかと言えばお前の方が可愛いんじゃね?」
「俺がぁ?そんなわけないじゃん、絶対グリーンの方が可愛いよ」
「俺は可愛くない、かっこいいんだ!」
「俺だってそうでしょ」
「…人受けの良さそうな顔だとは思ってたけど自負してるとは思わなかったな」
まぁ俺だって人のことは言えないが。
埒があかない、とりあえず残り少なとなったコーヒーを注ぎ足してこようと書類から目を離した。
「あ、待って!」
立ち上がりカップを持ったところでトウヤに腕を引かれた。
危ないな、転けるところだっただろ。
「…何だよ」
「あのさぁ、グリーンは知らないだろうけど俺は結構モテるんだからね!」
「あ?んなの顔見りゃわかるっての」
急に何を言い出すんだこいつは。自慢か、自慢なのか。
「だから、俺から告白したことなんてないし、付き合ったって笑顔で可愛い可愛い言ってたらみんな喜んでたんだよ!」
「へー…」
確かにあの笑顔は凶器だな、女の子なら一撃だ。
ていうか、
「何が言いたいんだ?」
「その、今までは、お遊び感覚っていうか、その、つまり、」
うじうじと何してるんだこいつは、さっきまでの自信はどこにいったんだよ。
「だから、…初めて、なんだよ…」
「何が?」
「初めて、真剣に付き合いたいと思ったんだ…!」
トウヤは顔を真っ赤にしながら俺を見てくる。
ははーん、なるほどなるほど。このモテモテグリーンさんにその好きな子との付き合い方を伝授してほしいと、そういうことだな。
「よし、お前の言いたいことはわかった」
「!…っ、本当に?」
「あぁ、まずその好きな子の特徴教えろよ」
「……は?」
「なんだよ?特徴とか性格教えてもらえなきゃ流石の俺だって伝授できないぞ?」
「え、と、グリーン何か勘違いしてない?」
「あぁ?好きな子との付き合い方を伝授してほしいってことじゃねえの?」
俺の発した言葉を聞いて心底あきれたようなため息をはき、どんだけ鈍感なの、と声を漏らした。なんだよ、失礼なやつだな。
「違う、違うよグリーン」
「何が?」
「俺が好きなのは、グリーンだ、よ、」
「…は?」
いやいや、何言ってんのこいつ。あぁ、あれか、ライクのほうか。確かにそういうことなら俺だって、
「言っとくけど、恋愛対象として見てるって意味だからね」
ライクじゃなくてラブだから。
そう言ったトウヤの顔はあの笑顔はどうしたと言いたいくらい真剣に俺を見てくる。
意味を理解した俺は顔に熱が集まるのを感じた。すぐさま今まで捕まれていたトウヤの手を払い除けドアへと急いだ。