時間は、刻一刻と過ぎていく
貴方が戦いに行くまで、あと数十分

そんなことを全く感じさせないような姿ですやすやと恭弥さんは、眠っていた。

閉じた睫毛も私の太ももの上に広がる少し短めな髪も、あどけなく見える寝顔も全部ぜんぶ愛おしく見える。
惚れた弱みなのかは、分からないけどね
でも、子供みたいにあまりにも無防備に寝ているものだから、柔らかそうな黒髪につい手を伸ばす
そのまま恭弥さんの頭を撫でながら指の間をするすると通り抜けていく髪を堪能していると
不意に腕を掴まれた
「なにしてるの」
寝起きだから、あまり呂律が回っていない

「すみません、つい頭を撫でてました」
そう白状するとふーん、と大して興味もなさそうに起き上がった

もうそろそろだ。あと少しで送り出さなくてはいけない
いつもの喧嘩なら、まだ送り出せた
でも、今日は命を賭ける戦いだから
送り出せる気持ちになれなくて、
でも恭弥さんは、弱い人は嫌いでしょう?
だから、嫌われたくなくて何も言わずに送り出そうとしている、そんな自分がいるのがたまらなく嫌だった
だけど、だけど、恭弥さんに嫌われるより死なれた方がずっと嫌だから
そう思ってるうちに無意識に
「恭弥さん、行かないで…」
恭弥さんのシャツをぎゅっと握りしめ、小さな声でそう言っていた
「行ったらダメだよ…だって、恭弥さん死んじゃうかもしれないじゃない…」

「ねぇ、君は僕がそう簡単に死ぬと思ってるの?」
「そうじゃない、けど…!」
そういい終わる前にぎゅうっと前から抱きしめられていた。恭弥さんのひどく心地よい声が耳元で響いた
「なら、僕のことを信じて待っていなよ」
そう聞こえた声にこくこくと首を縦にふってしまうのは、惚れた弱みなのかしら

「恭弥さん 絶対、絶対に帰って来てね…
私、信じてるから」

「ん、ホントに泣き虫だね」
そう言いながらも優しく指の腹で涙を拭ってくれた。そして、そっと触れるだけのキスをして
「じゃあ、行ってくるよ」
学ランを翻して行ってしまった

「行ってらっしゃい」


そうだよ、私は、恭弥さんのために何かをできることなんてないもの
だからこそ、恭弥さんを信じて待つの

恭弥さんは、絶対にここに帰って来てくれるの、約束したもの


恭弥さんがここにちゃんと帰ってきますように
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