自分的大告白から早一週間経とうとしている。時の流れとは早いものだ。結局何も変わりなく一日一日がただただ過ぎていく。二人でいる時間は決して変わらず。むしろ変わらず過ごせてよかったなー。何て考えながら、今日もラッセルの家でまったりのんびり過ごしている。別に住んでいるわけじゃないが、実家だなー。と思う様な安心感がなぜかこの家にはあった。その日もラッセルは雑誌を器用にフックでぱらぱらめくっていた。何も言わない、でも居心地が悪くない時間がただただ過ぎていた。すると突然、ラッセルが、あ。と言った。


「どうしたの?」


と聞くと、これ。と雑誌を出される。指した個所を見るとラッセルが行きたがってた店が開店したというものだ。


「へー、こんな場所に建つんだね。」
「てかもう建った。」
「そっか。そうだね。」


それでまた会話は終わった。どちらでもなく立ち上がると飲み物や食べ物を要求して、つまらない話をして、適当に相槌をうって。変哲もない幸せな時間を過ごしていた。

気づくと窓の外はもう暗かった。それに気付いたのかラッセルが泊まるか?と聞きうん。と言おうとしたその時だった。


「あー!」

「何?」

「洗濯物干しっぱなしだ!」

「バカ。」


そう言って呆れられる目を向けられる。本当は今日は人肌が恋しい気分だったけれど仕方がない。帰るよ。と言うと、んー。と言われて立ち上がるラッセル。


「見送るわ。」


何て当たり前のように返されてなんだかすごくうれしかった。


外は少し肌寒くて、もうすぐ寒い季節が来るのかなー何て思っていたらラッセルも同じことを思ったのか、


「寒く何のかな?」


とつぶやいた。そうだねー。と返すと自然に手をつないでいた。ラッセルの指は細くて冷たくて気持ちよかった。


「お前ぬくいのなー。」
「子供体温なんだー。」


って返すと、もう少ししたら重宝するなって笑顔で返された。自然と口元が緩んで笑顔を返した。なんでもない時間がなんだか特別で素敵だった。



「じゃ、気をつけろよな。」


そう言って名残惜しそうに手が離れる。んー。って返すと


「あー、明日暇?」


と珍しく聞かれる。普段なら聞かないのになんだろうなって思いながら、明日は仕事だよ。って返すと、そっかと言われ少し残念そうな顔をされた。
申し訳なくなり、なんかごめん。と言うと気にすんなよ。と笑われた。なんだか無理してるみたいだった。


「仕事がんばれ。じゃーな。」
「ん、ありがと。」


そう言って別れたその日はなんだか一人が恋しくて隣が肌寒かった。




ぼーと、時計の針を眺める。早く定時こないかなー。何て考えながら。


「働いてください。」


と上から声がかかる。モールだ。なんでわかったの?と聞くとなんとなくです。と返された。モールって不思議な奴だなぁ。いつもより楽しそうに見えて


「機嫌いいね。」


と聞くと


「なんでわかったんですか?」


と返される。なんとなく。って答えると普段は閉じたままのサングラスの向こう側の目が開いた。


「今日はお出かけなんです。」
「嗚呼、モール昼前にあがりだっけ?いいよね。」
「デートなんですよ。」


そう言ってにっこりと笑われた。デート。自分が一週間前ぐらいに言ったその言葉。結局有言実行何て出来なかったけれど。


「いいね。デート。」


本心でそう言うと、実に楽しそうな顔ではい。と言われた。ちょっとした好奇心で誰と?何て聞くと、秘密ですよ。と言われ耳を貸せを言うので貸すと小さな声で教えてくれた。






「ラッセルと。」


いいでしょ?何て付け足す彼に対して何も言えず。ただなんだかひどくさっぱりしていて。喉の奥がとっても苦かった。








ガチャガチャと乱暴に鍵を開けると靴を整えもせず、ソファに寝っころがった。袋から酒を取り出すと、味合わず喉に流し込む。寝て飲んだせいか気管に入りゲホゲホッとむせると途端に悲しくなって涙があふれた。


「なんでモールなんだよっ……。」


天井がかすんでよく見えず、ヤケ酒に手が付かない。一人がさびしくて悔しくて。嗚咽が漏れた。慰めてくれる人はいない。一人じゃ意地なんか張る意味がない。張れない。張らなくてもいいよって言ってくれる笑顔が欲しい。とりつけた顔を元に戻してくれなきゃ、素で何て笑えない。一人じゃこんなにも苦いのは食べきれない。


「俺ってばかだなぁ……。」


昨日珍しさついでに空いてるって言えば、二人はデートしなかったかもしれない。俺がもっとデートしたい何て言えば俺としていたかもしれない。取り返しつかないことに、今更気づいて悔しくて羨ましくて涙があふれる。


「一人じゃどんなに甘くたって苦いよ。」


泣いて泣いて、気づいたら寝てしまっていた。








目を開けると昨日と同じ天井で、二日酔いって訳でもないから昨日の事はしっかりと覚えている。すっごく目がカサカサして開けると少し痛い。机の上を見ると何故だかきれいに片付いていた。


「あれ……。」
「よぉ、起きたか。」


その声にびっくりしてバッと上体を起こす。そこに居たのは紛れもない、付き合っているラッセルだった。


「ラッセル。」
「嗚呼、勝手に入ったぞ。にしてもお前寝るならベットで寝ろよ。ソファだと腰痛いだろ。」


そう言われて目の前に水を置かれる。


「二日酔いじゃないか?水飲んどけよ。あと、服着替えろよ。それ皺になるぞ。っていうかもうなってるか。」
「あ……、うう……。」


もどかしそうな手を握り締めていると、向こうから抱きしめてくれた。それを強く抱きしめ返した。


「怖い夢でも見たか?」
「いや……。」
「そっか。」


そう言って頭をくしゃりとなでられる。その手が確かに自分に向けられていることに、ひどく安心した。手を伸ばし髪をのけると普段は見えない耳にはしっかりとピアスがしてあった。Lをかたどったその痕が。


「ちゃんとある……。」
「ん。あるよ。」


そこにやさしく口付けをすると、それは消えることなくしっかりとついていた。幻なんかじゃない。触れる物がそこについていた。


「L……。」
「お前のLだろ?」


そう言って同じ方の耳を触られる。同じように触ると確かにそこにはRをかたどったピアスがある。同じ様に口づけされると


「俺のR。」


そう言って笑顔を向けてくれる。そうだ、俺のはラッセルのR。でも、


「そのLは、俺のLだよね?」


確認したくてそう聞くと、以外にないだろ。って言って優しくキスをされる。俺ってめんどくさい。聞かなきゃ、本人の口から言ってくれなきゃ不安で泣きそうになってしまう。


「モールのじゃないよね?」

「Lじゃないじゃん。モールさんは。」


そう言って変なランピーって笑われる。可笑しいな、俺のラッセルなんだ。じゃあ、昨日のは夢なのか?でもちゃんと記憶にある。あれ?おかしいな。でもいいかもしれない。取り返しがつくことが分かった。


「デートしたい。」


俺はそう言ったんだ。




「……。」
「デートしたい。」
「寝ぼけてないよな?」


そう言ってみにょーんと頬を掴まれる。あんまり痛くないけど、ねぼけてはいない。


「わんもあたいむ。」
「でーひょひふぁい。」


頬をつねっていた手を離され、うーん。と考えられる。ラッセルは立ち上がって洗面台の方に向かって行った。しばらくすると水の音が聞こえて、顔を洗ったラッセルが戻ってきた。


「もう一度。」
「デートしたい。」


クッションに顔をうずめられる。何が何だかわかんなくて、どうしたの?と聞くと。耳まで真っ赤にされて


「俺もしたい。」


何て言われた。









ラッセルが作ってくれた朝食をモリモリ食べながら、昨日のことを話す。


「で、デートしたの?モールと。」
「うん。デートの下見した。」


本人はデートしたとは微塵も思ってないらしくあくまで下見だという。でもなんで下見何てしてたのだろう。なんで?とパンを食べながら言うと、ラッセルの眉間にしわが寄った。何?と聞くと、ぶっきらぼうに答えられた。


「お前が一周間前にいったんだろーが!バカ!」


正直びっくりした。生返事だと思ってた。と言うと、その後に映画とかアクセとか食い物の話しただろーが!と、怒られた。びっくりと言えばもう一つ。


「なんで、そんなに調べてくれてんの?」


と聞くと、顔を赤くされて下を向かれた。照れてるラッセルめっちゃ可愛い、とか思いながら返答を待っていると恋人とのデートはちゃんとしたこと無かっただろ。と言われた。とりあえず、恋人とかラッセルの口から聞くのとか、俺と考えが一緒とか何もかも可愛かった。


「なんつーか、俺が女役じゃん。だったら、デートのプランぐらい決めさせてよ。でもさ、お前デートって言ったのあれっきりじゃん。なんか適当に言ったのかと思ってさ。一人だけ浮かれてんのかと思ってさ。」


言いにくかった。とぽつりと言われると、とりあえず俺も言いにくかったよ。何て言うとまだ少し赤い顔でばっかみてぇだな。と笑いあった。


多分。甘い恋したいのに意地張ってビターにしているのは二人ともおんなじだと思う。だからちょっとそれが苦かったり、物足りなかったりしてんだと思う。たまに言うお互いの大告白にお互い救われてんだろうなって。救われながらもまた意地張っちゃってんだろうなって。でもそんなビターも二人なら悪くないかなって。だって、甘くて胸糞悪いのはたまにだから甘いって今日二人で気づけた。苦すぎて歯切りの良い日も、甘い吐き気も二人でかみしめていきたい。



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