アイスコーヒー | ナノ
何飲む?とラッセルに聞けばラッセルは雑誌を捲りながら、あー。と少し迷った後
「アイスコーヒー」
と言った。もうそんな時期か。と俺は、はーい。って返事しながら考えた。
俺もラッセルも珈琲も紅茶も飲む。けど頻度が高いのは珈琲だ。それは俺が紅茶を淹れるのが下手くそだからだ。それと俺が何時も淹れる方だからだ。
「お待ちどーさま」
「あんがと」
ラッセルの前にアイスコーヒーを置いた。すぐ返ってくるお礼は反射でしたものだろう。でもやっぱりお礼って言われると嬉しい。
久しぶりに出したコップをラッセルは掴み、一口それを飲んで
「んー、夏だな」
と言った。
俺をそうだねぇ、と返す。カフェオレの俺は夏をまだ味わってない。
紅茶を淹れるのはラッセルの方が上手い。俺は温度とか気にしない人間だから紅茶を淹れるのは向いてない。その辺ラッセルは温度とか気にすることが出来るタイプだから向いてるんだろうなー。って思う。
立ってる俺にラッセルがソファの端に寄り、隣をぽんぽんと叩く。埃を飛ばしてる?いいえ、俺を呼んでいるのです。
隣に座ればラッセルがちょっと寄ってくる。暑いとか言いながらこういう事するから本当に何だろうな、嬉しい。
目の前に空いてるソファが合ってもラッセルはそういう事をする。向こうに座れなんてそうそう言わない。
「なー」
「んー」
「暑ぃか?」
「別に、ラッセルは?」
「風が気持ちいいから」
「そっか」
じんわりと熱が混じる感じ。開けられた窓から入ってくる風が邪魔なんてことはない。むしろ心地いい。
珈琲はドリップ、紅茶はパックと茶葉。あ、珈琲インスタントも合った。まぁ、そんな感じ。
俺が紅茶飲みたい時ラッセルが淹れ無かったらパックを使う。ちょっと長めに浸からすのが俺は好き。
ドリップは俺でも出来る。案外簡単にね。待つだけって感じだからかな。
「ラッセル」
「んあ」
雑誌を読み終えたラッセルがあくび混じりに返事をした。向けられた顔に見慣れた、だなんて思える俺はどれだけ贅沢者何だろうか。
「好きだよ」
結局選んだ言葉はそれだった。なんか言いたい事沢山あった気がしたけど気のせいだったみたいだ。俺がラッセルにそう言えばラッセルは、ポカンって顔をして
「何だ、突然」
って俺の方に向き直った。
頬は赤くない。けど髪に隠された耳は赤みを帯びてる。そこに手を添えれば、耳から頬に赤みがじんわりと移っていく。
「言いたくなったの」
「そ、うか」
突然の事に、むず痒そうな顔をしながらラッセルはそれでも俺を拒みはしなかった。
親指でラッセルの頬をなぞって、手櫛で彼の髪をといた。
「ラッセルは凄いなぁって」
「何が」
「えー、紅茶を淹れる事が出来るから?」
「……おん?」
「それから珈琲も淹れられるよね」
「……あー、あー?……あー」
あーの三段階活用を使用しながらラッセルが返事をした。あーしか言ってないラッセルの頬を撫でる。
「意味わかるかな?」
「分かるぜ」
平然とラッセルが言った。
そしてラッセルが俺の腰に手を回した。突然の事に今度は俺がポカンとした。
細い癖についてる筋肉、回された腕は俺を包もうとしていて、先ほどまで見ていた顔は俺の胸に埋められている。
「ラ、ッセルさん?」
「んー?」
「えっと……うん?どったの?」
控え目に腕を回せば嬉しそうにラッセルが、くつくつと笑う。
「分かるぜランピー、それはな甘えたいんだ」
「いや、今の状況どっちかと言うと甘えたいのラッセルじゃんか」
「あー、もうお前可愛いなー!無自覚かよ!」
そう言って頬に軽くキスを二、三回される。あ、これはうん。嬉しい。
そんな顔をしてたのかラッセルが笑う。
「名残惜しそうな顔すんなよな」
「えー、そんな顔してた?」
「た」
そう言ってラッセルが今度は口にキスしてきた。軽くだけど、満たされるのは何でだろ。
「満足?」
「えー、うん。ラッセルの事好きだわー……」
「おう、俺も」
カランって氷がなった。
不器用な俺が淹れて、器用な君が飲み干したそれが。
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