幸せ溜息 | ナノ
『幸せ溜息』
さて。
ラッセルは目の前にある大量のキウイに目をやった。
「ジャムにでもするか。」
包丁を手にしてラッセルはそう呟いた。
慣れた手つきで次から次へとキウイの皮を剥いていく。鼻歌でも歌いそうなラッセルの耳に聞き慣れた声が届く。
「ラッセルー?いるー?」
「おう、いるぞ。」
そう言いながら顔を玄関の方に向ける。と、そこにはやはりランピーがいた。
「おー、何してんの?」
「ジャム作ってる。」
冷たい外気がランピーと共に入ってくる。外はもうそんなに寒くなっていたとは。ランピーの鼻は冷たい外気に赤くされていた。とある歌の歌詞みたいだ。
「真っ赤なお鼻の〜」
「それトナカイじゃん。」
それもそうだ。とラッセルはそこで歌をやめた。改めてランピーを見ると彼の手には見覚えのある紙袋。
「パン?」
「そう、パン。」
暇つぶしに作った。とランピーはおどけた感じで言った。それにしても暇つぶしでパンが作れるあたりこいつは凄いな、とラッセルは心の中で感心する。
「何パン?」
「外国のアニメでヒーローやってるパンなんだ!」
「……アニメ?」
「そう!Anpanmanっていうらしいよ。」
「あん?あんってなんだ?」
1つって意味?と問うと、いいや。と返される。
「なんでも豆を煮詰めて甘いらしいよ!」
「豆が甘い?」
ラッセルは東洋の神秘だと思った。
「で、そのあんぱんまんってのを作ったのか?」
「いや、それの仲間を作ったんだ!」
ジャーン!という効果音と共に出されたのは……。
「食パン!!!」
「Oh Yeah!なんてこった!」
ただのパンだった。
「これなら俺の家にもある。」
「そうだね、でも出来立てだからさ美味しいよ?」
ね?と首を傾げるランピーに同意をするしかないのだろう。
「OK、ジャムできるまで待ってろよ。」
「やったね!楽しみ!」
そう言ってコートを脱いでソファにくつろぐランピーを見てラッセルは溜息を吐いた。
「これが俗に言うな。」
「何?」
「なんでもー?」
ソファに座る彼を見て、嗚呼。幸せだな。なんて。
目次 一言感想