それは二人が付き合い始めた頃の事だった。

 ランピーは何時もの様にラッセルの家に居た。
 ソファに自分の体重を預け、慣れた手付きで雑誌をめくる。
 「へぇ、あそこの会社謎の爆発で倒産したって。」
 「なんだよ、謎の爆発って。」
 「さぁ?ディド辺りのせいじゃないの?」
 「そうかもなぁ。」
 興味なさそうにラッセルはそう言うと、見ていた雑誌にまた目を落とした。
 それをランピーは少し淋しく思ったようで、ほぼ無意識にラッセルの近くに座った。
 「なんだよ。」
 「なんでもー。」
 そう言いながらラッセルの長い髪を一束掴みプラプラする。子供じみた手悪さにラッセルはため息をつきながらソファに預けていた体重をランピーにかけた。
 「どーん。」
 「ぐえー。」
 平均よりは軽いラッセルは受け止めながらランピーは頬を綻ばせた。
 「あー、ラッセルは優しいなー。」
 「おう、俺は優しいぞー。」
 そう言いながらラッセルはランピーに頭をぐりぐりしてその自分より広い胸板に顔を埋める。
 「ほれ、俺がお前を受け止めてやろう。」
 「いや、ラッセル。それ俺の台詞。」
 「じゃあ受け止めて?」
 「よしこーい。」
 お互いの温度を足して半分こにするように抱擁を交わすと自然とラッセルは上を向きランピーは下を向いた。
 「お前鼻筋高いな。」
 「ラッセルは目が大きい。」
 「開眼!」
 「海岸?」
 「何故海になったし……。」
 「ラッセルだし。」
 「それもそうだな。」
 甘えてくるように手を伸ばすラッセルを見られるのはやはり恋人の特権というやつなのだろう。
 緩む頬を恋人の髪に埋めて隠しながらランピーは口を開く。
 「海行きたくなった。」
 「あー……いきてぇ。」
 「じゃあ行こう。」
 「おう。」 
 名残惜しく離れたラッセルの体温を求める様にランピーは華奢な彼の手を握った。二人が付き合い始めた頃のそんな日常。

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