「マイム。マイム。」

名前を呼ぶと手袋越しの手が 私の手にふれた。キュッと握ると手の甲に「?」を描く。こういう方法でしか意志通じができない私たち。まったくもって不便で仕方がない。

「マイム。」

と呼ぶと地をける音が聞こえる。私が君を呼べるのは、君が近くにいると分かった時だけ。不便だ不便。まったくもって不便だ。

「君も好きな時に私の近くに来てくださいね。」

そうマイムに言うとマイムは手の甲に「●」と書いた。それを感じてマイムに伝わるように口角を上げた。

「ただ無理はしないでくださいね。」

又マイムは●を書いた。手袋ごしに若干伝わるぬくもりが気持ちよかった。

「言葉を聞きたい。」

するとマイムの手がピクッと固まった。みるみる力 が弱まっていく。私は知っている。この感じ。

彼は困っている。私の無理な注文に。
手の甲に書かれるのの字。ごめんなさい。でも意地悪したくなる。だって君のことを私は他の人より知ることが無いんだもの。だから、意地悪させてください。

彼からの手へのアプローチがなくなり私も少し慌てた。謝ろうと口を開いたその時。

耳に風が吹いた。

ふー、と。自然ではないその風が。私だけの耳に、届いた。

「貴方の?」

そう聞くと彼は私の手に「花丸」を描いた。手からはみ出そうなほど大きな花丸。

「マイム。」

私は大きな声で言った。

彼の手はびっくりしているようだった。

「君 に私の声が届くように呼びますよ?」

そう言って見えない目を見開いた。

私の瞳に君が映るために。

「マイム。」

君の名前を呼びましょう。


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