「どうしていつも声抑えるんだいねえねえねえ?」

 幾度目かの情交の最中、上絶霰士郎が出し抜けに訊ねた。
 ズボンを下ろされ、壁に手をつき後ろから突かれる形になっていた希望は、体を捩って霰士郎を振り返った。

「え、な、なに?」

 紅潮した希望の相貌には余裕がなく、瞳は涙で潤んでいた。
 普段人の好い笑みばかり浮かべている彼にしては珍しい表情だ。それを引きずり出したのが紛れもなく自分だという事実に霰士郎は優越感を覚えたが、完全に理性を取り払えていないのは明白だった。

「どうしてセックスの時声抑えるのかって聞いてるんだ。感じてるのは表情と発汗量と勃起と締め付けで分かるんだけどいくら責めても声だけは上げてくれないじゃないかひょっとして僕のテクニック不足? あんまり気持ち良くない? 不安になってしまうよ答えてほしいんだねえねえ」
「……っ! わ、わかった、わかったから。ちょっと、腰、止めて……!」

 霰士郎が律動を一旦停止すると、希望は深く息を吐いて呼吸を整えた。腕や膝がガクガクと痙攣していた。

「霰士郎とヤるのは、とても気持ちいいよ。本当に」
「じゃ何で声聞かせてくれないのさ?」
「…霰士郎、元々ノンケだし…男の喘ぎ声なんて、萎えるだけじゃないかと思って…」

 希望の顔立ちや体格は決して女性的とは言えない。声も変声期を迎えた低音だ。
 付き合う以前に霰士郎が好んでいた女性のタイプには掠りもしない。希望なりに、元ヘテロセクシャルの恋人を気遣っていたのだった。
 自分との性交が苦痛だった訳ではないと知り、霰士郎は喜んだ。
 但し、彼の声が聞きたいことに変わりはないのだが。

「試してみようか、君の声を聞いて萎えるかどうか」
「えっ? むぐっ」

 希望の口内に指を突っ込み、掻き回した。
 同時に、彼への攻撃も再開した。

「ふ、あう、ああっ」
「はっ、声えっろ…興奮するわ…!」

 霰士郎の指を傷つけない為にも、希望は口を開き続ける他なかった。必然的に嬌声が漏れ、羞恥で益々性感が強まった。

「あああっ……! あ、あ、あ、あっ」
「なあおい分かるか希望、“俺”がお前の中でどうなってるかどうか」
「っ! ひゃあ、や、らめっ」

 萎えるどころか腸内で更に膨張した霰士郎自身が、執拗に前立腺を刺激した。
 霰士郎の目は赤い輝きを宿し、本性が剥き出しになっていた。
 希望の口内を犯していた指を引き抜き、その手で彼の前も弄った。最早理性は残っていなかった。

「だめ、だめ、だめ、だめ、だめ、それだめぇっ…!」
「もっと鳴けよあーあー締まりのねえ顔しやがって可愛いじゃねえか」

 律動が激しさを増し、希望に与えられる快楽は耐え難いほどになった。
 霰士郎の動きに合わせて自らも積極的に腰を振り、彼に応えた。絶頂の予感に手足を突っ張らせた。

「ああああ、出る、出るぅっ! イっちゃうっ!」
「くっ! いいぜ、好きなだけイけ…!」

 希望の喘ぎは言葉を成さぬ叫びへと変わり、生理的な涙を流しながら激しくかぶりを振った。
 腸壁が霰士郎を一際強く締め付け、射精へと誘った。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!」

 声なき声を上げて希望は達した。それとほぼ変わらぬタイミングで、霰士郎も精を放った。

「は、あ…」

 霰士郎が自身を抜いた途端、希望は力が抜けてその場に座り込んだ。
 汗が伝う背中に色気を感じながら、霰士郎は背後から抱きついてキスを交わした。

「すっげーイイ声だったぜ。次からはもう抑えようとすんなよ」
「…褒められるのは嬉しいけど、恥ずかしいよ…」

 言いながらも希望は満更ではなさそうな笑みを浮かべた。
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