そうさ僕の想いは砂糖まみれ


『あ………』

出会い頭、2人揃って視線を交わした直後に出た第一声だった。
今日バレンタインデーということで、ブローカさんにプレゼントを渡したくて時間を作ってもらって会う約束をしていたわけだが…プレゼントを渡したいことやバレンタインの事には特に触れずに約束をしたので、お互いにプレゼントを手に持った姿に思わず声が出てしまったのだ。
我ながら、ロドスに来るまで男性運には恵まれず、感染者になってしまったのでこういったイベント事に自分が参加するなんて同じ医療部の同僚から話題をふられるまで考えることすらしなかった。だから、自分が貰うことは全くの想定外だったしブローカさんの反応を見るに向こうもそれは同じ様子で

「ふふっ、同じこと考えてましたね」
「…シラクーザでは男から渡すもんだったんだよ」

少し照れくさそうな仕草でブーケを渡してくるブローカさんが可愛らしくて思わず笑うとばつが悪そうに眉をひそめる彼に「悪い意味で笑ったんじゃないですから」と返して自分も用意していたチョコレートを手渡した。
まだ眉をひそめながらもプレゼントをうけとると素直に「ありがとう」と返す姿が可愛くてまた表情が緩みそうなのを抑え、表情を隠すために顔を伏せると今度は落ち着かない様子で揺れている尻尾が目についた。
これじゃ表情を抑えるどころか全くの逆効果だ!昂る気持ちを抑えよう、別の事に意識を向けよう と先に話を広げはじめる。

「私はこっちに来てから元同僚の人に教えてもらったんですけど国によって文化差があるんですね。」
「らしいな」
「これ……園芸部の人達の?」

受け取ったブーケを見ながら、ポデンコちゃんからバレンタインデーの時期だから商店街で温室で育てたお花を使ったブーケやプリザーブドフラワーの作成、販売を行うと聞いていたのを思い出した。そこで選んでくれたのだろうか…
そんなことを考えるうち、脳内で勝手に想像した花屋の前で頭を悩ませるブローカさんの姿が少しおかしくて口元が緩んでしまう。きっとこの体躯だから目立ったのだろうにそれでも私のために足を運んで時間をかけてくれたのだと思うと愛おしさと、想像に浮かんだその光景の違和感に遂に堪えきれずに声を零して笑ってしまった。
取り繕うように咳払いをしてももう遅く、琥珀色の瞳が不満を訴えかけるようにこちらを見つめていた。

「ごめんなさい、ふふ…でもお花屋さんにいるブローカさんってなんか似合わないから」
「…そんなに笑うなら来年からは別のにするからな」
「ふふっ」

私があんまり笑うから遂にはそっぽを向いてしまったブローカさんにちょっとだけ反省をしつつ、照れ隠しに出てきた「来年」という単語が新鮮で少しだけ感傷的になってしまう。
感染者になってから期待なんてなかった遠い先のこと、縁遠いと思っていた華々しいイベント事の話題も、なんだか慣れなくて。それ以上に出会ったばかりの頃…あんなに警戒心を見せていたブローカさんの口からこの先もロドスにいるような、私と一緒にいてくれるようなことを思わせてくれる言葉が聞けたのが何よりも嬉しくて、たくさんの時間を共に過ごしたのだなあとなんだかじんと感じるものがあった。

「…じゃあ"来年"の素敵なプレゼントも期待してますね」
「!!…はぁ…」

さっきまでの思わずこぼれたような笑みではなく心からの満面の笑みでそう返すと、意図せず来年の約束をしてしまったことに気づいたのかブローカさんは目を丸くしたあと、ジトっとした目つきで何か言いたげに。珍しく忙しい表情変化と、表情と一緒に動く耳が可愛いなあと一人でニコニコしていると、「じゃあ」とまた表情を変えたブローカさんが屈んで顔を近づけてきた。

「俺も、あんたの反応楽しみにしておく」
「!!!」

完全に油断しきっていたので至近距離で微笑みかけられて大きく心臓が波打った。自分で赤くなっていることが分かるくらい火照った私の顔を見るとブローカさんは満足気に私の頭に手をポン、と乗せて「じゃあな、大事に食べるよ」と言い残して行ってしまった。

「ーッ、か、感想聞かせてくださいね!!」

やり逃げのような形が何だかもどかしくて叫ぶと、抱きしめる力を強めてしまった腕の中のブーケが揺れる。小さく聞こえたラッピングペーパーと花の擦れた音がなんだか私を笑っているような気がした。






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